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    <55>「自分の身は自分で」意識大事

    • 「行政ができることには限界がある」と語る行船さん
      「行政ができることには限界がある」と語る行船さん

     8・6水害当日、竜ヶ水などの国道10号沿いで孤立した約3000人の中に、東京出張から県庁に戻る途中の土屋佳照知事(当時)もいた。元県職員の行船忠信さん(68)はこの時、県秘書課の調整主幹として知事に随行していた。孤立した現場で冷静に対応した知事の行動を、今も鮮明に覚えているという。

     羽田発の飛行機が鹿児島空港に到着したのは午後4時頃。公用車で県庁を目指したが、高速道路はすでに通行止めになっていた。抜け道を通り、竜ヶ水の手前までたどり着いたが、山手から鉄砲水があふれ、住宅や電柱が倒壊していた。「信じられない光景を目の当たりにし、恐怖心でいっぱいになった」と語る。

     竜ヶ水を過ぎた直後の午後8時前、三船病院付近でがけ崩れが起き、前後の行く手を阻まれた。土屋知事は車載電話で、自分の居場所と現場の状況を災害対策本部に報告。船による救助を指示した。

     道路には水があふれ、浸水した車から避難した人々が岸壁に集まった。土屋知事と行船さんは、スーツをひざまでまくり上げ、「船による救援を要請しました。安心してください」と叫んで回った。

     竜ヶ水駅前の孤立者の救助は午後9時前に始まったが、知事と行船さんがいる場所に救助の漁船が着いたのは午後10時頃。目の前の海を行き来する漁船に多くの人がいらだちを募らせる中、現場がパニックにならないよう、「慌てないで。まずはお年寄り、子ども、けがした人を優先してください」と呼びかけた。

     救助が始まっても知事は冷静だった。助けが必要な人を一人ひとり補助して漁船に乗り込ませた後、県の漁業取締船で県庁に戻り、陣頭指揮を執った。「がけがいつ崩れるかという恐怖の中、知事の勇気ある行動に感銘を受けた。全員が安全に助かるために的確な対応をとられていた」

     行船さんは後に県消防防災課長を3年間務め、防災研修センターの設立など災害防止策に取り組んだ。災害の現場と対策の双方を経験して感じたのは「行政が万全の対策を講じても、できることには限界がある」ということだ。

     「一人ひとりが『自分の身は自分で守る』という意識を持つことが何より大事。そのために何が一番効果的なのかを真剣に考えるのが、今ではないか」と語った。

    2013年05月29日 23時24分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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