〈2〉即興ダンス伊佐で磨く 自然の中で自由な発想
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複数の踊り手が音楽に合わせて体を接触させながら、即興で踊る「コンタクト・インプロビゼーション(CI)」。繊細な動きを見せたかと思えば、突然、相手の背中に乗りかかる。次にどんな動きが飛び出すかわからない緊張感が、独特の雰囲気を醸し出す。
米国で生まれたCIの、国内での第一人者が伊佐市の勝部ちこさん(53)と鹿島
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勝部さんはお茶の水女子大大学院で舞踊教育学を修了後、ニューヨーク留学中にCIと出会った。日本では体を接触させるダンスは少なく、最初は戸惑いを隠せなかった。
だが、体験するうちに接触は「対話」であり、「人と踊る喜び」を実感できるダンスだと気づく。「即興で踊るには、自分と向き合う必要がある。自分を探していく面白さがあった」と振り返る。
日本で普及させたいと考えた勝部さんは帰国後、2000年春に東京でCIグループ「C.I.co.」を設立。05年、同じ大学院を卒業した縁から鹿島さんが加わり、活動を本格化させた。
全国各地で公演や体験のワークショップなどを開催してきた。一方、海外にも「日本のCI」を紹介するため、イギリスやドイツ、イスラエル、韓国、台湾などで舞台に立ってきた。
決まった振り付けがないため、国や地域によってスタイルもバラバラ。勝部さんは「海外の人には『動作の起こし方が合気道のようだ』などと言われる。無意識のうちに日本的な動きをしているのかもしれない」と話す。
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勝部さんは大阪府出身で、鹿島さんは千葉県出身。2人が縁もゆかりもない伊佐市に移り住んだのは12年夏のことだ。海外での活動を重ねるうち、CIが自然豊かな環境で行われていることを知った。「同じような環境に身を置きたい」と考え、いくつかの移住先を検討する中、知人の紹介で訪れた伊佐市を気に入り、2人でIターンした。
現在は20世帯ほどが暮らす集落の一軒家で生活している。活動がない日は、畑で野菜を育てるなどしてゆったりと過ごす。「移住したことで、以前よりも自由な発想ができるようになった」と鹿島さん。ダンスにも良い影響を及ぼしており、見た人から「捉える空間が大きくなった」などと評されるようになったという。
昨年10月には、同市で国内外のダンサーらと合宿形式の「フェスティバル」を開催。参加者約70人が、豊かな自然の中で寝食を共にしながらパフォーマンスを磨くなどした。同市での開催は3度目で、一般の参加者も増えてきた。
勝部さんは「少しずつ、CIが知られるようになってきた」と手応えを語る。「これからも伊佐で生活しながら、良いダンスをつくっていきたい。それが伊佐を盛り上げることにつながればうれしい」と話している。
【コンタクト・インプロビゼーション】 米国のダンサー、スティーブ・パクストン氏が1972年に考案した。欧米ではスポーツ感覚で楽しまれており、大学の科目にも採用されている。