被告、今の日本映す鏡 相模原殺傷事件

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ノンフィクション作家の渡辺一史さん
ノンフィクション作家の渡辺一史さん

 筋ジストロフィーを患いながら自立生活をする男性に密着したノンフィクション「こんな夜更けにバナナかよ」の著者・渡辺一史さん(51)は、昨年5月から植松被告との面会を繰り返した。それでも植松被告がなぜこのような凶行に及んだのか、真相には届かなかった。渡辺さんは、裁判を通して「犯行に及んだ経緯と人物像に迫りたい」と考える。

 「皆さまに深くおわびします」――。弱々しげな声でそう言ったあと、植松被告は“右手の小指をかみ切るかのような”不可解な行動をし、刑務官らに取り押さえられたという。その行動がいったい何を意味したのかはわからないが、これまで被告と12回の面会を重ねてきた私が感じたのは、被告はこの裁判を最後まで乗り切る気力を失っていたのではないかということだ。

 その理由の一つは、弁護方針との大きな食い違いにあるのではないかと考える。植松被告はつねづね、「心神喪失者の行為は罰しない、心神耗弱者の行為は刑を減軽すると定める」という刑法39条を完全に否定してこういってきた。「頭がおかしければ無罪という理屈は間違っています。心神喪失者こそ死刑にすべきです」

 被告の犯行動機が「意思疎通のとれない障害者は安楽死させるべきだ」という主張であったことを考えると、自らを心神喪失者、あるいは心神耗弱者と認めることは、「植松、お前こそ安楽死すべきだ」といわれるに等しい。植松被告がこの矛盾をどう心の中で整理し、弁護方針に従うのか、あるいは、従わずに自分の主張を貫くべきなのか、彼はその大きな葛藤に身もだえする思いだったのだろう。

 植松被告の起こした事件は、誰しもの心の中にありがちな障害者への差別意識を引きずり出し、白日の下にさらした。そればかりか、人の価値を「生産性」という物差しで測り、社会のお荷物に思える人をバッシングし、排除しようという今の日本社会にまん延する風潮を凝縮したような犯罪である。その意味で私は、植松という存在は現れるべくして現れた今の日本社会を映し出す鏡だと見ている。

 今後、彼がどのような姿で法廷に立つのかはわからないが、自らの犯した罪や過去の言動と逃げずに最後まで向き合ってほしい。そして、この裁判を通じて、彼が犯行に至った経緯とその人物像に迫る上での事実を明らかにしてほしい。そうでなくては、亡くなった19人が浮かばれない。そんな思いで私は今後も裁判のゆくえを見届けたい。

 (渡辺一史・ノンフィクションライター)

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992345 0 ニュース 2020/01/09 05:00:00 2020/01/09 05:00:00 2020/01/09 05:00:00 ノンフィクション作家の渡辺一史さん(8日午後7時58分、横浜市中区で) https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/01/20200109-OYTNI50010-T.jpg?type=thumbnail

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