世界を変えるか 女子大初の工学部 

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笑い飯の哲夫さん
笑い飯の哲夫さん

「笑い飯」哲夫さん × 奈良女子大 藤田盟児学部長

 女子大学初の工学部が4月、奈良女子大に誕生した。「女性に工学は向かない」といった偏見にとらわれず、研究・開発に多様性をもたらす人材を育成する。初代学部長の藤田 盟児めいじ 教授(62)と、奈良県出身で小中学生向け学習塾を運営する漫才コンビ「笑い飯」の哲夫さん(47)に、新学部への期待や学ぶことの面白さについて語ってもらった。(生活教育部 蛭川真貴)

 女性技術者がいなかったから、作られてないものある

藤田盟児・奈良女子大工学部長
藤田盟児・奈良女子大工学部長

 ――なぜ今、女性の工学系人材が求められるのか。

  藤田  男性中心の工学部で教えた経験があるが、6年前に奈良女の生活環境学部に来て、違いを感じた。男性はかっこいいものを目指すが、女性は「誰に役立つか」「環境への負荷をいかに抑えるか」を考える傾向があることに気付かされた。

 街に目を向けると、建物も道路も男性が作りたかったものになっている。自動車もそう。情報化の時代にコンピューターという〈頭脳〉を扱うのが男性ばかりだと、世の中に偏った考え方がはびこってしまう。

  哲夫  男だけという雰囲気を打破するのは大切。いろんな想像力、発想力を結集していかないと、地球温暖化の時代はくぐり抜けられへんと思う。

  藤田  女性エンジニアがいなかったから、作られてきていないものが山ほどある。男女比率の偏りは片翼の飛行機みたいなもので、もう一つ翼があれば、もっと遠くまで飛べる。そこにフロンティア(未開拓分野)が広がっている。

――哲夫さんが教育に関わるようになったきっかけは。

  哲夫  大阪市で小中学生対象の学習塾「寺子屋こやや」をやっている。友達に投資する形で始め、今はオーナーです。

 月謝は激安にした。学力格差の時代はええことないなと思って。大手の塾は月謝がすごく高くて、僕らみたいな貧乏人の子どもは行かしてもらえない。勉強の仕方がわからん子が増えると学力差は開く一方です。

 でも、それはもったいないことなんです。勉強は得意ちゃうけど、アイデアはすごい子とか絶対にいる。「勉強もうあかん」となるんじゃなく、勉強の仕方を若いうちに習得して学力を上げておけば、社会のいろんな層が絡み合う土俵に立てるようになる。

 ――子どものやる気をどう引き出しているのか。

  哲夫  受験のためではなく、学校でわからなかったことを中心に教えている。解けない問題は手順を遡って一緒にやる。先生は売れない後輩芸人たち。それはもう面白おかしくやってもらっている。

 問題を解けた時に喜ぶ子どもの顔が、僕は大好物なんです。うれしい気持ちを隠しきれずに口角が上がっているのを見ると、もうたまらない。芸人も話芸のトレーニングになるので、ウィンウィンのシステムができたと思っています。

  藤田  本当に学んだ時、自分が変わる。学べば学ぶほど、見える世界は変わる。学生たちにもそんな学びをしてほしい。

若い世代の成長を、陰で支えるマニアでありたい

学びの面白さについて語り合う藤田盟児・奈良女子大工学部長(右)と笑い飯の哲夫さん(奈良市の奈良女子大で)=原田拓未撮影
学びの面白さについて語り合う藤田盟児・奈良女子大工学部長(右)と笑い飯の哲夫さん(奈良市の奈良女子大で)=原田拓未撮影

 ――そのために奈良女子大の工学部ではどのような教育をしているのか。

  藤田  従来の工学部は、機械や電気といった学科をまず選ぶが、奈良女は最初から専門を定めず、どれでも好きな科目を選べるカリキュラムにした。

 リベラルアーツ(教養)教育を重視し、さらに科学、技術、工学、芸術、数学から成る「 STEAMスティーム 教育」を取り入れた。芸術で想像力を育み、革新を起こせる人材を育てることは、世界の大学の潮流だ。今の時代は、自動車を例にとっても、機械をはじめ、燃料電池やIT(情報技術)など様々な知識が必要となる。幅広い教養は発想を生む。

  哲夫  仏教の教えでもあるが、実は全てのものがつながっている。どんなジャンルに手を出しても、後で「無駄やったな」って思うことは一個もない。

――工学部のキャッチコピーは「世界は変わる」。可能だろうか。

  藤田  新入生アンケートの結果を見ると、「他大学のように男性ばかりの工学部ではやっていけないと思っていました」という回答がいくつかあった。女子学生の思いをくみ、希望を実現できる場所を作ったことに意味がある。哲夫さんの塾と一緒で、学生が自分の思いを実現できる場で成長していけたら、良い世の中につながっていくと思う。

  哲夫  塾を全国展開するのが夢。世界とは言わないまでも、日本を良くする自信はある。塾も工学部も根っこは一緒で、要は取り組む姿勢を養える場所があることが大事なんだろう。学ぶ喜びの種をまいてあげたい。僕は若い世代の成長を、陰で支えるマニアでありたいと思っています。

◇お茶の水女子大も計画

 奈良女子大に続き、お茶の水女子大(東京)も2024年に「共創工学部」(仮称)の新設を計画する。

 全国に2校しかない国立の女子大がともに工学部を設ける背景には、社会のニーズが多様化し、社会や地域に技術革新を創出する女性の視点が注目されている事情がある。

 文部科学省の学校基本調査(21年度)によると、工学系学部の女子学生は15%にとどまる。国の試算では、IT人材が30年に最大79万人不足すると予測されており、末松文科相は24日の記者会見で、女性が理系でも活躍できる社会の構築を重点改革事項の一つとして挙げた。

  てつお  1974年、奈良県桜井市出身。関西学院大卒。2000年、漫才コンビ「笑い飯」を西田幸治さん(48)と結成。10年に若手漫才日本一を決める「M―1グランプリ」で悲願の優勝を果たした。仏教に造詣が深く、奈良国立博物館の文化大使を務める。

  ふじた・めいじ  1960年、愛媛県今治市出身。東京大大学院博士後期課程修了。工学博士。広島国際大教授などを経て、2016年から奈良女子大教授。専門は都市・建築史。各地の文化財建造物の修復を監修してきた。

◎「月刊大学」は原則毎月第4土曜日に掲載します。ご意見や、大学の話題をお寄せください。〒530・8551読売新聞大阪本社生活教育部(ファクス06・6365・7521、メールo-kyouiku@yomiuri.com)へ。

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