独自の観光資源 発掘を(郭洋春 立教大総長)

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郭洋春・立教大総長
郭洋春・立教大総長

 日本は戦後、電機や自動車などものづくりを核に経済成長を果たし、先進国となった。しかし、今はこうした産業が新興国に激しく追い上げられている。今後の成長を主導するのは観光産業だ。

 自動車には1台に3万~4万点の部品が使われる。中小企業も含め産業の裾野は広い。しかし、観光産業の場合は、それ以上に広がっており、総合的な産業といえる。

 訪日時に乗る飛行機や船を作る製造業、動かす運輸業。日本での食事で農業や漁業が潤い、大阪や京都などで開業ラッシュのホテルでは建設業といったように、ありとあらゆる産業が恩恵を受ける。

 日本を訪れる外国人観光客は今年、3000万人を超えるだろう。過去最高を更新するが、1億人超の人口に比べればまだ少ない。

 年間8000万人超が訪れる世界最大の観光大国であるフランスの人口は約6700万人だ。2016年の日本への観光客(2404万人)は世界16位、アジアで5位だった。世界3位の経済大国なのに、観光の国際競争力は低い。その分、大きな伸びしろがある。

 昨年、米ニューヨーク・タイムズが「日本の中心は東京だが、歴史や文化の中心は京都。そして、(食欲などの)欲望の中心は大阪」という記事を載せた。海外の注目は関西に集まっている。

 関西圏の観光では、関西国際空港から1時間足らずで大阪・難波に着く。江崎グリコの看板のある道頓堀や、通天閣のある新世界など人気スポットも集まっている。大阪を拠点に、京都や奈良、神戸などにも足を運ぶことができる。

 関西圏の強みはこのコンパクトさだ。しかし、同時に弱点でもある。有名な観光スポットを1度の訪日で、ある程度一巡できるので、「大阪はもう十分」と思われてしまうかもしれない。眠っている観光資源を関西全域で掘り起こし、各地に足を延ばしてもらう仕掛けを、官民挙げて作る必要がある。

「道頓堀」(大阪市中央区)絵・篠原貴之
「道頓堀」(大阪市中央区)絵・篠原貴之

 訪日客は「爆買い」ではなく、食や伝統文化の体験など日本でしかできないことを求めて来日するようになってきた。観光資源を掘り起こした成功例は各地にある。

 例えば、北海道枝幸町えさしちょうにある歌登うたのぼり地区。札幌から遠く、ホテルも1軒しかないが、多くのタイ人観光客が訪れる。このホテルでは日本の縁日を再現し、観光客は浴衣を着て金魚すくいや的当てなどを楽しめる。冬はかまくら作りやワカサギ釣りも体験できる。タイの旅行会社に売り込み、観光客の心をつかんだ。

 佐賀県鹿島市にある祐徳稲荷ゆうとくいなり神社もタイで有名だ。県の関係者がタイ映画界に売り込み、ロケを誘致したことがきっかけだった。

 日本で「古い」「不便」と思われているものが、海外では新鮮で斬新に映るのだろう。海外の視点も入れ、こうした事例を探して自治体、経済界が一丸となって海外にPRしていけばいい。

 和食が世界遺産に認定された際、政府は和食の海外進出の後押しに乗り出した。これに対し、ある京都の老舗料亭の料理人は「日本の店に来てもらわなければ、私の味は出せません」と反論した。実際にその土地を訪れ、その場でしか味わえない体験を楽しむという、観光の神髄をついた発言だ。

 関西では観光客が夜に楽しむ場も不足している。今はホテルに戻って寝てしまう観光客を夜間に集客できれば、経済効果はさらに大きくなる。大阪でカジノを含む統合型リゾート(IR)を整備する構想もあるが、カジノはマカオなど各地にある。カジノは果たして、日本でしかできない体験だろうか。周辺の飲食店などの需要を奪うマイナス面も出てくるだろう。

 それよりも、通天閣や大阪城、日本一の高層ビルあべのハルカスの展望台を24時間営業にしたり、吉本興業の「お笑い」を夜間に公演したりと、既存の資産を活用する施策を優先すべきではないか。

 訪日客の急増で一部の地域では渋滞がひどくなったり、ゴミが散乱したりといった「観光公害」も指摘されるようになってきた。多言語による案内表示など、受け入れるためのインフラ(社会基盤)整備が遅れている面もある。慢性的な渋滞が起きている地域では、乗り入れる車の数を制限するなどの措置も検討すべきだろう。

 

 

◇カク・ヤンチュン 1988年に立教大大学院の博士課程を単位取得退学。2001年から立教大経済学部教授。今年4月に総長に就任した。専門はアジア経済論。東京都出身で、国籍は韓国。59歳。

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48408 0 広論 2018/10/27 05:00:00 2018/10/27 05:00:00 2018/10/27 05:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20181107-OYTAI50005-T.jpg?type=thumbnail

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