読売新聞オンライン

メニュー

「古い」は魅力 感じる歴史 日本家屋、柱1本にも物語

[読者会員限定]
メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

数寄屋建築家 田野倉徹也さん
数寄屋建築家 田野倉徹也さん

数寄屋建築家 田野倉徹也さん

 僕は1978年生まれなので、70年大阪万博は、生まれる前の出来事です。雑誌で見たパビリオンは、鉄やガラスといった今と同じ素材が使われ、昔のものとは思えない斬新な構成に驚いた記憶があります。逆にいうと、当時から現在に至る50年間、デザインの発想において、大きな変化は見られなかったとも言えます。

 僕自身は、大学で建築を学んでいたころから、現代建築のスタイルには興味を持たなかった。むしろ古いものにひかれて、茶室の意匠を取り入れた数寄屋建築や能舞台、寺社などを手がけてきました。2015年に始まった人形浄瑠璃文楽の野外公演「にっぽん文楽」プロジェクトでは、総ひのきの組み立て式舞台を設計しました。

 僕が万博と聞いて描くイメージは「お祭り」です。また、文楽をはじめとする伝統芸能も、五穀豊穣ほうじょうなどを祈る祭りに合わせ、神々に奉納されてきた歴史がある。

 70年万博は、高度経済成長の高揚感をうまく表現して成功を収めたと思います。でも、2025年の大阪・関西万博で同じようなことをしてもだめでしょうね。「いのち輝く未来社会のデザイン」というテーマはきれいな言葉ですが、医療とかAI(人工知能)とか、依然として産業の進歩に目が向いている気がします。

 僕が最近、研究しているのは、近代数寄屋建築の巨匠・吉田五十八いそやです。70年万博で「松下館」を手がけた建築家。松下館は、奈良時代を意識した建物もさることながら、内部の茶室ではお茶が振る舞われ、来場者たちは敷地内に植えられた竹林を散歩したそうです。外国人だけでなく、多くの日本人にも文化の体験が新鮮に感じられたのではないでしょうか。

伊勢神宮外宮(げくう)に設置された田野倉さん設計の舞台で上演された「にっぽん文楽」(2017年3月、三重県伊勢市で)=原田拓未撮影
伊勢神宮外宮(げくう)に設置された田野倉さん設計の舞台で上演された「にっぽん文楽」(2017年3月、三重県伊勢市で)=原田拓未撮影

 「未来=新しいもの」と思いがちですが、新しいものはすぐに廃れてしまう。現代建築の多くが50年後には老朽化し、取り壊されるでしょう。一方、伝統的な日本建築は、人々の生活に根ざし、最終的には文化財になるほど息が長い。最新のテクノロジーを取り入れるのは当然のことですが、僕にとって、長く残ったものの「古さ」は、「新しさ」に勝る価値があります。

 例えば、古い日本家屋で使われていた材を新築に用いることがあります。古いものには、柱1本にも豊かな物語があり、「歴史とつながっている」という実感があります。つながりが希薄な時代だからこそ、日本の歴史や伝統を見直したい。

 70年万博の跡地である大阪府吹田市の万博記念公園で3月、「にっぽん文楽」公演が予定されていました。万博の象徴「太陽の塔」を背景に、歴史を感じ、よりよい未来を考える、またとない機会でしたが、新型コロナウイルスの影響で中止となってしまいました。今、多くの人が進むべき道に迷っています。25年の万博にこそ、こうした舞台が必要とされると思います。(聞き手・中井道子)

 たのくら・てつや 東京大大学院修了。鹿島建設を経て、13年に田野倉建築事務所を設立。今年5月に建築史家で建築家の藤森照信さんとの共著『五十八さんの数寄屋』(鹿島出版会)を刊行。RSK山陽放送新社屋(岡山市)の能舞台も手がける。

無断転載・複製を禁じます
1169450 1 2025大阪・関西万博 2020/04/16 15:00:00 2020/04/16 15:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/04/20200416-OYTAI50006-T.jpg?type=thumbnail

ピックアップ

読売新聞購読申し込み

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)