消臭の服や断熱材 生活に浸透

(中)宇宙から地上への恵み

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 日本人が初めて宇宙に行ったのは1990年、平成2年だった。これまで12人の日本人が宇宙に滞在し、日本の宇宙開発技術は世界トップ級になった。その技術が平成年間に地上にスピンオフし、生活に浸透しつつある。

 昨年末、買い物客らで混雑した複合商業施設「グランフロント大阪」(大阪市北区)。5階のアウトドア店「ザ・ノース・フェイス プラス」で、店員が自社商品のスエット上着を男性客に薦めていた。

 スエットには、ユーカリから作られた繊維一本一本に、汗のにおいや加齢臭の原因となるアンモニアや酢酸などを吸着・中和する粒が埋め込まれている。同じ原理でアンモニア臭を99%抑える下着のシャツもあり、長時間着用する登山家らに好評という。

 店を運営するスポーツ衣料メーカー「ゴールドウイン」(東京)で商品開発にあたる安倍季隆さん(50)は、「宇宙で実証された技術を活用し、優れた消臭効果を実現している」と明かす。

 約400キロ・メートル上空を飛行する国際宇宙ステーション(ISS)。宇宙飛行士は普段着姿で生活するが、水は貴重で洗濯機はなく、何日も同じ服で過ごす。無重力の影響下では筋力が落ちるため、毎日2時間運動し、汗をかくのも大事な日課だ。

 ゴ社や繊維大手「東レ」(東京)、宇宙航空研究開発機構(JAXA)などは2004年、宇宙で快適に過ごす服の研究に共同で着手した。電子機器に影響する静電気が起きにくい素材で、高い消臭性と抗菌性を備え、1週間程度の連続着用に耐える下着や船内服を開発。約10年前から土井隆雄さん(64)、星出彰彦さん(50)ら日本人宇宙飛行士がISSで着用し、技術は今も引き継がれている。

 研究を主導した多屋淑子・日本女子大教授(66)(生活工学)は「宇宙飛行士から『においに悩まされなかった』と報告を受け、商品化の手応えを感じた」と振り返る。

 東レが手がけた消臭ポリエステル生地は、13年からビジネス用ワイシャツで商品化され、全国展開する有名ラーメン店のユニホームにも採用された。生地の売り上げは年間約3億円。東レは「避難生活用や介護用の衣服などにも広げたい」と意気込む。

 国産大型ロケットの先端部は打ち上げ時、300度もの高温になる。中に人工衛星などの精密機器が搭載されるため、高い断熱性能が必要だ。

 「日進産業」(東京)は国産ロケットの先端部用に開発した断熱技術を転用し、建物の外壁などに塗る断熱材「ガイナ」を商品化した。ガイナには熱の移動を調節する特殊セラミックの微小な粒が大量に含まれ、塗ると粒が自然に表面で層を作り、熱を遮る。

 建物の断熱に大がかりな工事が不要になり、既存の建物でも断熱性能を高めることができる。40か国以上の建物で利用され、宮城県女川町の地方卸売市場や東大寺ミュージアム(奈良市)、JR新神戸駅(神戸市)でも使われた。

 意外な用途はサッカーシューズ。中底に塗ると夏の人工芝でも熱さを抑え、快適な履き心地になるという。石子達次郎社長(64)は「JAXAの技術で『魔法の塗料』ができると感じた。宇宙技術は暮らしを良くする力」と話す。

コスモノードのロゴマーク(JAXA提供)
コスモノードのロゴマーク(JAXA提供)

 ◇日本発の製品 「コスモード」

 JAXAは日本の宇宙開発技術からスピンオフした製品を「JAXA COSMODE(コスモード)」=ロゴマークはJAXA提供=の名称でブランド化した。英語の宇宙(コスモス)と、流行や生活(モード)を組み合わせた造語だ。

 ガイナが第1号で、今ではゴ社や東レの衣服、人工衛星データで解析した優良な茶園産の緑茶、炭素繊維強化樹脂を使ったテニスラケットなど約90件ある。JAXA新事業促進部の川井孝之課長(57)は「宇宙には無限の可能性がある。志を同じくする企業と連携し商品を創りたい」と話す。

宇宙から帰還した断熱容器の同型品。中井さんは「魔法瓶の技術が新たな段階に入った」と話す(大阪府門真市で)
宇宙から帰還した断熱容器の同型品。中井さんは「魔法瓶の技術が新たな段階に入った」と話す(大阪府門真市で)

 ◇特注“魔法瓶”限界まで軽量化

 日用品から宇宙に飛び出した技術もある。昨秋、ISSの宇宙実験で作ったたんぱく質を地球に届けたのは、特注の“魔法瓶”だった。

 「タイガー魔法瓶」(大阪府門真市)は2014年、魔法瓶の技術を使って宇宙からたんぱく質の試料を運ぶ断熱容器が作れないか、JAXAから打診を受けた。宇宙技術は未経験だったが「うちがやらなければ計画が消える」と、翌年から共同開発に入った。ただ、JAXAの要望は、大気圏突入時の衝撃に耐えつつ「4度の温度を4日間以上保つこと」。これまでの魔法瓶で、温度を保てるのは24時間が限界だった。

 ステンレス製の円筒型容器(直径、高さ各約30センチ)を二つ重ね、保冷剤と一緒に詰める方法を採用した。最初の試作品は約18キロで、宇宙に運ぶには重過ぎた。限界まで容器の厚さを削りながら試作と性能検査を続け、約10キロまで軽くした。

 ISSで保冷剤を入れてから、宇宙に放出され太平洋に着水し、試料を出すまでの5日間、内部の温度をほぼ4度に保った。同社の開発リーダー中井啓司さん(54)は、「我々の技術で宇宙開発チームの一員になれたことはうれしい。成果を次の製品につなげたい」と話す。

「日本のもの作りはお家芸。産学官の連携で日本の宇宙開発をさらに発展させたい」と話す大西さん(茨城県つくば市で)
「日本のもの作りはお家芸。産学官の連携で日本の宇宙開発をさらに発展させたい」と話す大西さん(茨城県つくば市で)

 ◇宇宙滞在民間の力不可欠 宇宙飛行士 大西卓哉さんに聞く

 ISSに長期滞在したJAXA宇宙飛行士の大西卓哉さん(43)=写真=に、宇宙開発技術のスピンオフの意義などを聞いた。

 閉鎖環境のISSではにおいは大きなストレスで、ストレスは作業の効率を落とす。アポロ宇宙船やスペースシャトル内はくさいと聞いていたが、定期的に消毒が行われるISSは病院のようなにおいだった。

 ISSで着る服は消臭性や速乾性、動きやすさなど、様々な機能を備えた品のカタログから選ぶ。私も若田光一さん(55)ら先輩宇宙飛行士のアドバイスで消臭機能の高い下着などを持ち込んだ。仲間全員が快適に過ごせたのは、スピンオフされた高い技術のおかげだ。

 水の打ち上げコストは1リットル80万~100万円。尿などを装置で処理し再利用した飲み水はおいしく、違和感は全くなかった。この装置は、飲み水が貴重な地域でも重宝されるはずだ。

 タイガー魔法瓶製の断熱容器は、日本企業の高い技術力が生かされた好例で、感謝したい。無重力の環境でしか作れない特殊なたんぱく質などを好きな時に地上で回収できる装置を、日本が獲得した意義は大きい。

 地球と火星を往復するには2年半はかかる。補給は難しく、実現には民間の力が不可欠だ。高機能、小型で信頼性の高い技術を開発し、一緒に火星を目指しましょう。

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61638 0 扉を開く ハイテク生活技術 2019/01/11 05:00:00 2019/01/11 05:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20190111-OYTAI50005-T.jpg?type=thumbnail

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