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<滋賀>信楽焼1 古窯の火 絶やさぬ

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檜垣紋を入れた水指を手びねりで仕上げる奥田英山さん(甲賀市で)
檜垣紋を入れた水指を手びねりで仕上げる奥田英山さん(甲賀市で)
茶道家元の目に留まり、箱書きをもらった耳つきの花入れ 
茶道家元の目に留まり、箱書きをもらった耳つきの花入れ 
「ここが崩れてねえ」と穴窯の内壁を指さす奥田さん
「ここが崩れてねえ」と穴窯の内壁を指さす奥田さん

 中世から続く陶磁器産地「日本六古窯」の一つ、信楽焼。タヌキの置物が並び、多くの窯元が操業する高原の町・信楽(甲賀市信楽町)には、どんな職人や芸術家、研究者らが集い、伝統の技をどう仕事に生かし、磨いているのか。陶芸の聖地の今を伝える。(藤井浩)

薪の炎生みだす「緋色」

  緋色ひいろ ――。信楽焼を象徴する、やや黄みがかった明るい赤は、燃えさかる まき の炎がまるで生物の舌のように窯の中で伸び、器をなめることで現れる。「炎が土に付ける、まさに火の色だ」。甲賀市信楽町にある〈窯元散策路〉の一角に「 英山窯えいざんがま 」を構える陶芸家奥田英山さん(76)は言う。

 60年近く作陶を続ける奥田さんの指は太く、長い。うちわのような両手で信楽産の粘土をこね、棒状に伸ばし、ろくろを回しながら積み重ね、形作る。瞬く間に、茶席で必要な水を入れる器「水指」が完成した。

 これを穴窯に入れる際、焼く日数と薪との距離、粘土に含まれる鉄分が「良い緋色になるかどうかのカギ」という。

 原則は、赤松の薪で1250度に熱した窯で3、4日間。さらに長く焼いて器に灰をかぶらせると、 釉薬ゆうやく をかけたような自然の光沢が生まれる。鉄分が多いと黒っぽく仕上がる。「鉄分はなるべく少なめ、数%がいい。薪から適当に離して炎を走らせる。この土なら、この辺に置けばモノになるとわかる」と胸を張る。

火鉢から茶陶に活路

 実家は代々、信楽焼を代表する火鉢を手がけた焼きもの屋だった。父が初代「英山」を冠し、茶わんや香炉、小鉢なども作る職人に囲まれて育った。県立膳所高時代は1メートル85の長身を生かし、バレーボール部で活躍。名門・東レに誘われたと父に話すと、「バレー界で生き残るのは難しい。兄と陶器をやれ」と諭された。

 当時、既に火鉢の需要はストーブに押され、落ち込んでいた。「このまま終わるわけにはいかない」と決心し、高校卒業後、父の下で修業する傍ら、知人の勧めで裏千家茶道を習った。

 茶釜を作る鋳鉄技術、茶せんなどの竹細工のほか、書や香道の要素も含む茶道が「日本文化の集大成だ」と理解して心酔し、20歳代で茶名「宗英」を拝命した。家業で作る茶わんについても「茶人の立場でより使いやすく、味わい深く」と考え、兄を亡くした30歳の時、「茶道具を専門にやっていこう」と道を定めた。

 そのために30歳代の時、古い登り窯を、あえて半地上式の穴窯(幅約2メートル、奥行き約3メートル)に自力で改造した。穴を縦に掘って天井を覆い、燃焼と焼成を単室で行う原始的な造りで、登り窯のように大量生産には向かないが、直火の作用で個性的な作風を追求できるのが利点だ。

 中に器を並べ、手前で薪を燃やすと、上に流れる炎と灰が器に〈景色〉と呼ばれる多彩な色や風合いを生んだ。

 約20年前、近江神宮(大津市)での裏千家の献茶式で、茶席で披露した耳つきの花入れが当時の家元の目に留まった。緋色に加え、灰かぶりの渋い景色に「気に入った。もう少し大きく作ってくれないか」と頼まれ、3本を持参すると、1本を受け取り、箱書きをしてくれた。残りは1本を裏千家淡交会滋賀支部に贈り、1本は家宝にしている。「ありがたかった。めったにない機会でしたねえ」

窯修復へCF活用

 そんな逸品を生んできた穴窯が3年ほど前、内壁の崩落などで使えなくなった。年齢には勝てず、「自力で直せない」と困っていると、修繕資金をインターネットの寄付で募るクラウドファンディング(CF)の手法を知った。今月1日から始めたところ、半月足らずで100万円が寄せられた。150万円を目標に8月29日まで募集中だ。修復後は自身の作品のほか、窯の陶芸教室生らの作品も焼き、その魅力を知ってほしいと思っている。

 「信楽焼だからこそ、茶のわびた世界の表現に存在感を示してきた。茶道も伝統工芸の信楽焼も携わる人が減っているが、日本文化を片隅で担う一人として窯を存続させたい」。古里の土に刻みつける炎に似て、その情熱は消えない。

 特定のテーマについて詳しく伝える「 Newニュー 門@滋賀」。7月は「信楽焼」をテーマに、1週間連続で掲載します。

信楽焼  鎌倉時代に始まったとされる。古琵琶湖層群と呼ばれる地層からとれる腰と粘りの強い土で、火鉢、風呂おけなどの「大物」、土瓶や急須などの「小物」といった大小の器が制作されてきた。明治以降は駅弁とセットで茶を入れた汽車土瓶、繭を煮て糸を取り出す糸取鍋、硫酸瓶なども生産して産業近代化に貢献。戦時中は地雷や手榴弾(しゅりゅうだん)といった兵器も作った。 1975年に国の伝統的工芸品に指定された。信楽陶器工業協同組合によると、加盟窯元と年間生産額は92年の約170事業所(個人、法人)・約168億円をピークに、2020年は96事業所・約29億円に減少。生活様式の変化や外国産の安価なプラスチック製品の普及、建材需要の減少などが原因とみられ、後継者の育成が課題だ。

 一方、信楽には近代陶芸の巨匠・富本憲吉や北大路魯山人、岡本太郎、バーナード・リーチ(英国)ら、国内外の著名な陶芸家や芸術家らが訪問。今も、同組合非加盟の個人作家約120人が固有の窯を持つなどして創作活動をしている。

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使い方
2214378 0 New門@関西 2021/07/17 05:00:00 2021/07/26 21:45:25 檜垣紋を入れた水指を手びねりで仕上げる奥田英山さん(甲賀市で) https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/07/20210717-OYTAI50009-T.jpg?type=thumbnail

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