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「今度こそ」崩れた誓い…仕事なく給付金で覚醒剤

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大阪地裁。332号法廷は本館(正面)の真裏に立つ新館3階にある
大阪地裁。332号法廷は本館(正面)の真裏に立つ新館3階にある

 年間5万3000件に上る刑事裁判の9割近くは、裁判官1人で審理される「単独事件」だ。そのほとんどは世間の注目を集めることもなく処理されていくが、目をこらせば、そこに世相が色濃くにじむこともある。大阪地裁で最も小さな単独事件用の「332号」法廷で繰り広げられる審理を通じて今を見つめたい。

 11月18日朝、温和な顔にマスクを着けた車田修(58)(仮名)が、背を丸めて法廷に入ってきた。

 罪名は覚醒剤取締法違反。8月、大阪市住吉区のスーパーのトイレで覚醒剤を使用後、警察官に職務質問された。所持品には6本の注射器。右腕に注射の痕。言い逃れの余地はなかった。

 「間違いありません」。起訴事実に争いはない。冒頭陳述で、検察官が経歴や犯行までの経緯を早口で読み上げていく。

 覚醒剤に手を染めたのは22歳のとき。女友達に勧められ、軽い気持ちで手を出した。以来、何度も刑務所に入り、今回は仮出所から7か月後のことだった。

 もっとも、法廷で見えてきたのは、修なりに「今度こそは」ともがいた跡。そして、新型コロナの影だった。

刑務所仲間

傍聴席はわずか17席。大阪地裁で最も小さな332号法廷では、1日で10件近い刑事裁判が開かれる日もある(イラスト・構成 竹本佐治)
傍聴席はわずか17席。大阪地裁で最も小さな332号法廷では、1日で10件近い刑事裁判が開かれる日もある(イラスト・構成 竹本佐治)

 今年1月、受刑態度を評価され、刑期を約半年残して仮出所した。ただ、条件である身元引受人を母親に拒まれ、住む場所や食事を一時的に提供する愛知県の更生保護施設に入った。経験のあるトラック運転の職に就きたかったが、前科が重なり、選べる立場でもない。建設現場で若者に交じってスコップを振るった。

 4月に入り、事態は一変する。新型コロナの感染拡大で国の緊急事態宣言が出され、大手ゼネコンが一斉に工事をストップ。仕事はなくなった。

 施設を離れ、2週間ほど三重県の実家に身を寄せた後、大阪に向かった。「万博もIR(カジノを中核とする統合型リゾート)もある。何とかなるんちゃうか」。知人の言葉を信じた。

 だが、甘かった。コロナ禍で思うような求人はなかった。「働きたいのにチャンスさえもらえないのか」。投げやりな気持ちになり、刑務所で知り合った仲間に連絡をとった。手元にはコロナで一律給付された10万円の残りがあった。

 再び注射器を握っていた。

幸せな10年

 法廷で被告人質問が始まった。弁護人が水を向けたのは家族のことだ。

 施設を出る際、身元引受人を引き受けてくれたのが実家にいた長女だった。電話口でためらう長女の様子に、これまでかけてきた迷惑の大きさを思った。恥を忍んで頼み込み、渋々応じてもらった。

 4年ぶりのふるさと。幼い孫が「じぃちゃん」となついてくれた。「孫と買い物に行き、楽しかった。10年くらい(覚醒剤を)やめられていたときのことを思い出しました」。メガネを外し、涙をぬぐった。

 28歳で結婚し、娘が生まれ、運転手の仕事に励んだ。マイホームを建て、地元の消防団で副団長も務めた。覚醒剤が頭から消えていた10年。確かに幸せだった。

 続いて検察官が厳しい口調で尋ねた。「また、家族を裏切りましたね」。修は「はい」と小さく答えた。

 検察官は論告で、常習性は顕著だとして懲役5年を求刑。弁護人は情状酌量を求め、修は「孫と暮らしたい。二度としません」と述べた。

 2週間後の判決は、懲役3年4月の実刑。

 「孫と過ごすため再犯しない、と誓ったことを含めて主文の刑に処する」

 証言台で、うつむき加減で聞いていた修は「わかりましたね」と問われ、うなずいた。その背後の傍聴席に、家族の姿はなかった。(敬称略)

再犯率 有職者の3倍

 再犯防止には就労先の確保が欠かせない。2013~17年、保護司らの指導の下で社会復帰を目指す「保護観察」を終えた人のうち、無職者の再犯率は有職者の約3倍の25%に上った。

 国は出所予定者の職歴などをデータベース化し、受け入れ希望企業につなぐ取り組みを16年から始めた。しかし19年度の出所者で、受刑中に就労を希望した4355人のうち出所後の就職先が決まっていたのは34%の1498人だった。

 希望職種の求人が少ないのが理由のひとつだが、コロナ禍も追い打ちをかける。10月の全国の有効求人倍率は、求人が求職者の数を下回る「1倍割れ」に近い1・04倍に悪化している。

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1717170 0 332号法廷から 2020/12/21 15:00:00 2020/12/21 18:22:09 大阪地裁で最も小さな332号法廷。多い日には10件の刑事裁判が開かれる(イラスト・構成 竹本佐治) https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/12/20201221-OYTAI50005-T.jpg?type=thumbnail

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