読売新聞オンライン

メニュー

ニュース

動画

写真

スポーツ

コラム・連載・解説

発言小町

漫画

教育・受験・就活

調査研究

紙面ビューアー

その他

サービス

読売新聞のメディア

購読のお申し込み

読売新聞オンラインについて

公式SNSアカウント

何度も盗み 罰か支援か…累犯障害者 見守り限界

スクラップは会員限定です

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

 11月11日夕。いつもは閑散としている大阪地裁332号法廷だが、この日は少し様子が違った。傍聴席で男女3人が身を乗り出すように証言台を見つめていた。

 視線の先にいるのは、おかっぱ頭の小柄な初老の女。起訴事実が間違いないかどうかを裁判官に尋ねられた鈴木敏子(62)(仮名)は、消え入りそうな声で答えた。「間違いありません……」

敏子の判決確定から数日後。支援記録を囲み、支援者らが出所後の関わり方を議論した(大阪市内で)
敏子の判決確定から数日後。支援記録を囲み、支援者らが出所後の関わり方を議論した(大阪市内で)

 敏子が問われたのは窃盗罪。その犯行は、お粗末なものだった。9月下旬、大阪市西成区のスーパーで女性客に背後から近づき、手押し車にぶらさがっていたバッグをった。被害者のほぼ目の前での行為。すぐに気付かれ、店員に取り押さえられた。

 当日は1000円ほどを握りしめて家を出た。別の店でコロッケなどを買って手持ちがなくなり、犯行に及んだ。肉を買いたかったというのが動機だ。

一人きり

 傍聴席の3人のうち1人が呼ばれ、証言台に立った。敏子が利用する福祉施設の男性相談員(68)だ。「本人なりに頑張ってきた。私の判断が甘かったと思います」。そう言ってうなだれた。

 敏子には軽い知的障害がある。言葉遣いはしっかりしているが、理解力に乏しい。早くに母を亡くし、視覚障害を持つ父と公営住宅でつつましく暮らしてきた。その父が6年前に他界すると、一人きりになった。

 以来、窃盗事件で2度逮捕された。2度目は執行猶予中の犯行で、実刑判決を受けた。障害を抱えながらも福祉の支援が届かずに犯罪を繰り返す者を「累犯障害者」と呼ぶ。貧困や孤立に陥りがちで、窃盗や無銭飲食などの軽微な犯罪を重ねる特徴がある。敏子は典型的な累犯障害者だった。

 出所した2年前から、支援計画に基づく敏子の見守りが始まった。午前中は就労先の作業所で支援員が、午後からはホームヘルパーが寄り添った。受給する生活保護費をまとめて使わないよう「きょうは1100円」「週末なので2500円」と、計画的に手渡した。

 支援には複数の福祉施設などの十数人が関わり、立ち直りのために知恵を絞ってきた。だが、四六時中、目をかけ続けることはできない。事件が起きたのは、4連休の最終日。作業所は4日間とも休みで、支援は手薄になっていた。

 「彼女の窃盗癖を福祉の力だけで変えるのは難しいのがよくわかった。病気だと捉え、(精神科の)専門プログラムにつなぐべきでした」。相談員は唇をかんだ。

待ってるから

 引き続き行われた被告人質問。弁護人は反省の言葉を引き出そうと試みた。

 「被害者に対して、どう思いますか」

 「……申し訳ないです」

 「自分の行為を振り返ってどうですか」

 「……最低です」

 一言で返す淡泊なやり取りを続けていた敏子の態度に変化が見えたのは、質問が支援者のことに及んだときだ。

 「悲しい思いをしているのでは」

 「……はい」。声が震え、すすり泣きが法廷に響いた。

 検察官は論告で「大胆な犯行で、常習性は顕著」と述べ、懲役2年を求刑。弁護人は、敏子が精神科を受診し、自身に向き合う約束をしているとして、寛大な処分を求めた。

 11月27日に言い渡された判決は、懲役1年4月の実刑。敏子は裁判官が読み上げる主文を前を向いたまま聞いていた。閉廷後、刑務官に腰縄をつけられる敏子の小さな背中に声が飛んだ。

 「体に気をつけて」「みんな待ってるからね」

 支援者たちだった。敏子は目線を送り、不安げな表情のまま、法廷の奥へと消えた。

 控訴はせず、判決は確定した。(敬称略)

再犯防止 医療もカギ

 法務省の統計では、昨年の新規受刑者1万7464人の20%に当たる3509人が、知的障害の疑いがある「知能指数70未満」に該当していた。全国の刑務所に2012年1~9月に入った知的障害者548人のうち、6割超の342人は再犯だったとの調査もある。

 再犯を防ぐには、敏子のように福祉による支援に加え、医療につなぐことも重要とされる。思考の癖を分析し、カウンセリングやグループワークで改善する「認知行動療法」などが用いられている。

無断転載・複製を禁じます
スクラップは会員限定です

使い方
1719581 0 332号法廷から 2020/12/22 15:00:00 2020/12/22 15:00:00 敏子の支援記録を囲み、出所後の関わり方を議論する支援者ら(大阪市内で) https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/12/20201222-OYTAI50004-T.jpg?type=thumbnail

ピックアップ

読売新聞購読申し込み

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)