<5>支援と介入 矛盾抱え
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「保護者との対立が、支援を難しくしている」
1月18日、新型コロナウイルスの影響で、オンラインで行われた厚生労働省の「一時保護のあり方に関する検討会」。現場の代表として招かれた千葉県児童相談所改革室の山本俊明室長(53)は、パソコンの画面上に並ぶ有識者らに窮状を訴えた。
県(千葉市除く)では2019年度、虐待対応件数が9061件に上り、この5年で1・6倍に。19年に同県野田市で、栗原
その結果として、もたらされたのが保護者との対立だった。
「子どもを一時保護されるというイメージが強くなり、話し合いも難しくなっている」と言う。
昨年4月、県内の一部児相で、一時保護などの「介入」と保護者の相談に応じる「支援」の部署を分けた。しかし、保護者から見れば同じ児相であることは変わらない。子どもを引き離しながら、保護者を支援しなくてはならない矛盾を抱え、職員は疲弊し、離職が後を絶たない。
山本室長は、一時保護の重要性は十二分に認識している。その上で、検討会で保護する権限を児相から切り離すことを提案した。
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唐突とも言える提案がなされたのは、一時保護に司法的な側面が極めて強くあるためだ。
児相は、その名の通り「子どもに関する相談に応じる」機関だ。しかし、一時保護の比重が増す中、育児に困難を抱える保護者が恐れて支援を求めにくくなり、虐待が潜在化する恐れがある。

「一時保護ばかりでは子どもも家庭も守れない」
検討会メンバーで、大阪市の認定NPO法人「チャイルド・リソース・センター(CRC)」代表の宮口智恵さん(55)も訴える。
宮口さんは元児童福祉司で、かつて大阪府の児相で15年間勤務していた。「ママの所に帰りたい」「子どもを返して」。そんな訴えにも、保護が何より優先される現場では耳を塞ぐしかなかった。限界を感じて06年に退職。先進地のカナダに視察に向かった。
カナダでは、一時保護は裁判所が判断。裁判所の命令に基づき、親子の関係を修復する「再統合」を民間団体が手助けをしていた。
見学した団体で出会った親子は、日本で向き合った親子と変わらなかった。1組ごとにつくスタッフが仲介役となり、一緒に食事を取るうち、親子が徐々に打ち解けていくことに感銘を受けた。
07年にCRCを設立。カナダの取り組みを参考に児相と連携して親子再統合プログラムを実施し、約170組を支えてきた。宮口さんは「あまりに児相に負担が偏っている。外部が支える必要がある」と話す。
◇ 裁判所の関与国が議論
国にも危機感がある。
昨年9月に設置された厚労省の検討会はその表れだ。現行の問題点について有識者が幅広く議論し、今年3月までに結論を出す予定だ。
焦点の一つは、裁判所を関与させるかどうかで、一時保護の前後に、家裁が妥当性を審査することが想定されている。
現場からは「保護者の理解を得られやすい」との声もあるが、「書類作成などの業務負担が重くなる」「保護の遅れにつながる」と慎重な意見も根強い。
茨城県で児相職員を務めた和田一郎・花園大教授(児童福祉論)は「現場はすでにパンクしている。職員の増員や施設整備は対症療法でしかない。虐待対応を児相にだけ負わせるのではなく、役割分担を検討する時期に来ている」とした上で、「職員が自信を持って、親子を支援できる仕組みが必要だ」と指摘する。
一時保護のあるべき姿とは。子どもの笑顔を守るため、丁寧かつ徹底的な議論が求められる。
(おわり。この連載は、増田尚浩、虎走亮介が担当しました)

◇ 法改正を重ね 虐待対応強化
児童相談所の機能や運用は何度も見直されてきた。
2000年施行の児童虐待防止法で、警察や病院などが児相に通告することを義務化。児相は虐待の疑いがあれば家庭に立ち入り調査できるようになった。07年の法改正では、強制的に立ち入る「臨検捜索」ができるよう権限強化された。
また、同年の指針改定では、通告から48時間以内に子どもの安全を確認する「48時間ルール」が盛り込まれ、児相は緊急対応に追われるようになった。
一方、16年の児童福祉法改正では「家庭での養育」を原則とする理念を明記。17年の同法改正では、保護者の同意がなく一時保護を延長する場合は、家裁の承認が必要になった。

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