[言わせて 聞かせて]コロナの犠牲者 どう悼む

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 読売新聞の朝刊には「新型コロナウイルスの感染者」という一覧表が毎日、掲載されます。都道府県別の感染者数などがまとめられていますが、今日は下の「全体合計」の欄を見てください。

 1684人。コロナで命を落とした人の累計です。

 しかし、一人ひとりがどんな方だったのか。それが記事になることはほとんどありません。

 各自治体から公表されるのは、死者の性別や年代に限られます。志村けんさんら有名人は所属事務所が公表しましたが、通常、名前は分かりません。差別や偏見を恐れ、周囲に明かしていない遺族がいるのも事実です。

 誰なのか分からないまま積み上がっていく数字ですが、私には、はっきり顔が浮かぶ男性が一人います。

 大阪市平野区の大地おおじ末春さん(87)。長期入院していた病院で院内感染し、4月27日に他界しました。

 私が知ったのは5月中旬、偶然、聞いた知人の話がきっかけでした。断片的な住所を頼りに半日ほど歩き回り、捜し当てた自宅を訪ねました。

 取材を断られることも覚悟していましたが、大地さんの妻(81)と長女(62)は、戸惑いながらも遺族の思いを語ってくれました。

大地さんの死を伝える5月19日の朝刊の記事
大地さんの死を伝える5月19日の朝刊の記事

 大地さんは約60年前、自宅横で大衆食堂を始め、家族と切り盛りしてきました。店は近くの町工場の職人らでにぎわい、大地さんは気さくな人柄で親しまれたそうです。

 別れは突然でした。入院先の病院は感染防止のため3月から面会を中止。不運にも感染した大地さんは家族と会うこともかなわないまま、遺骨になって帰ってきました。

 「孤独に死んでいったと思うと、本当にやりきれません」。妻は何度も涙をぬぐい、胸中を明かしました。そしてこう言葉を継ぎました。

 「記事になって多くの人にコロナの怖さが伝わるなら、あの人も喜ぶでしょう」

 傍らでは、遺影の大地さんが優しくほほえんでいました。

 コロナで逝った一人の男性の生涯と、不条理な別れが確かにあったのだと実感し、胸に迫ってきました。

 大地さんの死と妻の思いを伝える記事を掲載したのは5月19日でした。家族には、故人をよく知る人から惜しむ声が寄せられ、励ましの手紙も届いたそうです。

 私自身、コロナの犠牲者を真正面から取り上げたのは初めてで、当初は周囲の家族への反応を少し心配しましたが、米国や英国などの報道では「名前と顔が見える」のが普通のようです。

 遺族や友人の追悼のメッセージがよく記事になっており、米紙ニューヨーク・タイムズは、5月24日の朝刊に死者約1000人の名前や紹介文を掲載し、「誰一人として単なる数字で表せる存在ではなかった」と伝えています。

 欧米とは、文化的な違いも大きいのでしょう。しかし、この差の背景に、家族の死を明かしにくい風潮があるとすれば、複雑な気持ちにさせられます。コロナの犠牲者を社会でどう悼むべきなのか。考え続けています。

【今回の担当は】虎走亮介(こばしり・りょうすけ)

 和歌山、兵庫、大阪の各府県で多くの事件の被害者や加害者を取材してきた。33歳。奈良県出身。

 

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1556953 0 言わせて 聞かせて 2020/10/18 05:00:00 2020/10/18 05:00:00 2020/10/18 05:00:00 大地さんの死を伝える5月18日の記事 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/10/20201018-OYTAI50008-T.jpg?type=thumbnail

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