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元裁判長、企業の刑事責任問い続け…信楽事故、14日で30年

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信楽高原鉄道事故の刑事裁判で裁判長を務めた安原浩さん。「企業の責任を明確にすることが、再発防止につながる」と力を込める(7日、兵庫県芦屋市で)=宇那木健一撮影
信楽高原鉄道事故の刑事裁判で裁判長を務めた安原浩さん。「企業の責任を明確にすることが、再発防止につながる」と力を込める(7日、兵庫県芦屋市で)=宇那木健一撮影

 1991年に起きた信楽高原鉄道事故から14日で30年となる。事故の刑事裁判を担当した大津地裁の元裁判官で弁護士の安原浩さん(77)は、現在、重大事故で企業に刑事責任を問う「組織罰」の法制化を目指す活動に関わっている。当事者を裁いた司法関係者が、なぜ組織罰が必要だと考えるに至ったのだろうか。思いを聞いた。(上野将平)

 安原さんは68年に裁判官に任官。97年に大津地裁に赴任し、既に始まっていた刑事裁判に関わり、裁判長として当時の運転主任ら3人に業務上過失致死傷罪などで有罪を言い渡した。

 「当時から判決文を書くにあたり、じれったさがあった。3人は現場の一職員として右往左往していただけの側面があったからだ」

 3人は信楽駅の信号が「赤」の状態で、列車を発車させたことで罪に問われた。しかし背景には、JR西日本が信楽鉄道に乗り入れる際に両社が整備した信号システムの不具合で、駅の信号が「青」に変わらないトラブルが過去にも起きていたという事情もあった。

 「3人には、確かに注意義務違反があったが、遠因は信号整備の不備だ。しかし今の法体系では個人の責任しか問えない。刑事裁判官は起訴された人の責任を判断するだけだが、会社側が責任を負わないというのは、トカゲのしっぽ切りだと怒りを感じていた。判決理由で『両社の危機管理体制のずさんさが被告の過失を誘発した』と踏み込んだのは、その思いからだ」

 退官後の2014年、JR福知山線脱線事故(2005年)の遺族らのグループの勉強会に講師として招かれ「組織罰」のことを初めて知った。

 「組織罰があれば、事故の本来の原因をただせると考えるようになった。個人を処罰しても再発防止には限界があるが、企業が巨額の罰金などで責任を問われれば、予算面や組織面でも安全管理を重視するようになるはずだ」

 遺族らの思いに改めて触れたことも大きかった。

 「裁判官として大切にしてきたのは『納得』だ。加害者、被害者の双方が『仕方ない』と判決を受け入れること。組織罰で企業と経営陣の責任を問い、再発防止につなげるけじめがつけば、家族を失った人たちの思いが少しは報われる」

 組織罰には「企業が処罰を恐れ、真相究明に協力しなくなる」などとして導入に慎重な意見も強い。

 「慎重論は、刑事免責を取引材料に真相を引き出すという考え方だ。アメリカなどが実際に採用している。しかし私は違うと思う。企業の安全管理の責任を放免することは、遺族感情からも許されない。法を順守し、安全対策をしっかり講じる企業こそが発展できる社会でなければいけない」

「真相究明阻害も」…慎重意見 事故調査に力点

佐藤健宗弁護士
佐藤健宗弁護士

 信楽高原鉄道事故の遺族らとともに航空・鉄道事故調査委員会(現・運輸安全委員会)の発足を政府に働きかける活動に携わり、組織罰に慎重な立場を取る弁護士の佐藤健宗さん(62)にも話を聞いた。

 遺族らが設立した「鉄道安全推進会議(TASK)」(2019年に解散)に加わり、鉄道事故対象の調査機関を設置するよう政府に求める活動をした。以来、企業の刑事責任を追及することは、真相究明を阻害しかねないと考えている。

 活動で参考にしたのが遺族らと視察した米国の「国家運輸安全委員会(NTSB)」だ。NTSBは処罰を目的にせず、事故を起こした企業とテーブルの同じ側に座って再発防止のために協力する。責任追及を巡って対峙たいじしないからこそ、より深く原因を究明できる。

 相手が刑事責任を追及する捜査機関であれば、企業は組織を守ろうと情報を隠すだろう。しかも捜査機関は専門性の点で限界がある。遺族が望む真相は明るみに出ない可能性があり、そうなれば再発防止は図れない。

 事故を無意味なものにしないためには、それを機により安全な社会へと改善が図られるべきだし、それを願う遺族も多い。そのためには、事故調査に力点を置く方が近道だと私は思う。

信楽高原鉄道事故 1991年5月14日、滋賀県信楽町(現・甲賀市)の第3セクター・信楽高原鉄道で、同社の列車と、臨時に乗り入れたJR西日本の列車が単線上で正面衝突し、42人が死亡、600人以上が重軽傷を負った。刑事事件では信楽鉄道社員ら3人に対し、業務上過失致死傷罪などで禁錮2年~2年6月の執行猶予付き判決が1審で確定した。民事訴訟ではJR西も過失を認定され、2003年に両社に計約5億円の賠償を命じる判決が確定した。

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2049058 1 ニュース 2021/05/13 15:00:00 2021/05/13 15:00:00 2021/05/13 15:00:00 信楽高原鉄道事故を振り返り、組織罰の必要性を訴える弁護士の安原浩さん(7日午後1時47分、兵庫県芦屋市で)=宇那木健一撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/05/20210513-OYO1I50001-T.jpg?type=thumbnail

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