孤立と困窮の末、拡大自殺 服役後「行き場がないんや」…北新地放火1か月<上>

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 大阪・北新地の放火殺人事件で、死亡した谷本盛雄容疑者(61)の詳細な生活実態が明らかになった。預金は事件の2年前から底をついた状態で、周囲との交流もほとんどなかった。大阪府警は、困窮と孤立の末に、多くの人を巻き添えに自殺を図る「拡大自殺」に及んだとみている。事件発生からまもなく1か月。その背景を探る。

 「0円」。谷本容疑者が唯一持っていた銀行口座の残高だ。昨年1月に最後の83円が引き出されて以降、利用履歴はなかった。

 この口座には2015年1月、約150万円の預金があったが、徐々に減少。19年10月には1万円を切り、その後は数千円の出入りばかりだった。捜査幹部は「この頃から窮迫していたのではないか」とみる。

 頼みの綱は家賃収入だった。1987年に購入して家族と暮らした大阪市西淀川区の3階建て住宅を、2007年から貸し出した。月7万円の収入を得ていたが、借り主が退去し、19年9月に入金は途絶えた。

 この時期、谷本容疑者は父親から相続した此花区の住宅で暮らし、区役所に「生活が苦しい」と生活保護の相談をしていた。資産や家賃収入があっても、収入が一定以下で就労も困難であれば保護費の支給は可能だが、谷本容疑者の申請は却下されたという。

 この二つの住宅は、市税の滞納で差し押さえられたこともあった。人と交わることなく、コンビニやスーパーで買った弁当で空腹を満たす日々を送っていた。

 150万円の預金があった15年1月は、長男に対する殺人未遂事件で服役し、出所する直前だった。

 谷本容疑者は02年から板金工場で勤め、家族4人で生活していた。だが夫婦仲はこじれ、08年に離婚。工場も無断欠勤し、10年に退職した。その後は定職に就くことはなかった。

 元妻に復縁を申し込んだが断られ、孤独感を募らせた末、11年、家族を道連れに自殺しようと考え、長男を包丁で刺した。谷本容疑者は調べに「寂しさに耐えられず、家族を殺害して自殺する踏ん切りをつけようと思った」と述べていた。

 懲役4年の実刑判決で服役後は、堺市の更生保護施設で過ごした。その際、施設で知り合った男性にこう打ち明けたという。

 「妻と離婚していて、戻りたいけど、無理だと思う。行き場がないんや」

 男性が保証人となり、谷本容疑者は15年6月、大阪市住之江区のマンションに部屋を借りた。男性には感謝の言葉を述べたが、半年ほどで行き先を告げず姿を消した。男性は取材に「人とうまく付き合えないのかなと感じた」と語った。

 両親を亡くし、数少ない肉親の兄にも連絡を取らず、仕事ぶりを評価してくれた板金工場の社長を頼ることもない。近くに住む元妻を訪ねることもなかった。

 府警が解析した谷本容疑者のスマートフォン。電話帳に登録された電話番号は0件だった。交友関係を示す通話履歴もなかった。捜査幹部は「聞き込みをしても、付き合いのある人は見つからなかった」と語る。

 そんな中、事件現場となったクリニックには、17年3月から「眠れない」などと月1~3回のペースで通っていた。最後の診察は事件2週間前だった。

 捜査幹部は推測する。「社会との唯一の接点だったクリニックを襲い、人生を清算しようと考えたのではないか」

半年前から事件計画 下見して患者集まる時間確認

 谷本容疑者は昨年6月頃から、スマホに事件の計画を書き込み、9月頃には、具体的な行動を起こしていた。

 スマホのスケジュール管理アプリには、9月9日付の欄に「20時54分 踊り場ドアが閉まった」「21時13分 先生が1階出入り口から出てきた」と記されていた。院長らが現場のビルを出入りする様子を下見し、誰もいない時間帯を確認していたとみられる。

 事件当日と同じ金曜日の10月22日付には「9時58分までに合計22人 一気に入ってきた」と記載。現場のクリニックでは、職場復帰に向けた「リワークプログラム」が金曜の午前中に開かれ、大勢が集まる時間を確認していたと推測される。

 下見を終え、事件で使われたガソリンを購入したのは11月30日。大阪市西淀川区のガソリンスタンドで10リットルを購入し、12月2日には兵庫県尼崎市でさらに20リットルを手に入れていた。

 容疑者が最後に通院した12月3日午後4時頃には、院内の防犯カメラに消火栓の前で不審な動きをする姿が映っていた。消火栓が開かないように、扉の隙間に補修材を塗り込んでいたとみられる。

 事件前日の16日夜には現場のビルから約500メートル離れたコインロッカーにガソリンが入ったとみられる紙袋を入れて隠した。その後、午後9時20分頃の院内の防犯カメラには「ビリビリ」という音が残されていた。クリニックと非常階段をつなぐ扉は補修材が塗られて開かなくなっており、府警は容疑者が細工をした際の音とみている。扉は、事件当日に院長が気付いて体当たりして開けていた。

 12月17日、容疑者は紙袋を自転車に積んで西淀川区の住宅を出発。ロッカーからもう一つの紙袋を取り出し、午前10時15分、ビル4階のエレベーターからクリニックに姿を現した。ビル1階のゴミ箱には、自宅の鍵が捨てられていた。

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