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コロナ禍で人気の高まる魚釣りを観光客誘致や移住促進などの地域振興に生かそうと、民間や自治体が知恵を絞っている。国も漁港や防波堤を釣り場として積極的に開放し始め、太公望を引き寄せる取り組みを後押ししている。(福永健人)
地域資源生かす
養殖が盛んな愛媛県宇和島市で3月、ホテルや自治体の関係者ら約30人が参加してモニターツアーが行われた。湾内に浮かぶ直径20メートルのいけすに遊漁船で渡り、4年物のクロマグロ(60~100キロ)の一本釣りや餌やりを体験した。


コロナ禍で観光業が低迷する中、ここでしか体験できない観光商品を生み出そうと、地元の水産加工会社「宇和島プロジェクト」や銀行が企画した。富裕層や社内イベントで利用する企業をターゲットに、1年以内の商品化を目指す。
宇和島プロジェクトの木和田権一社長(51)は「目の前で泳ぐマグロは迫力があり、豪快な体験ができる。宇和島の養殖魚の新たな魅力を伝え、観光振興に結びつけたい」と意気込む。
多彩な振興策
コロナ禍で密を避けるアウトドア人気が高まり、釣りを楽しむ人も増えている。日本釣用品工業会(東京)の調査では、釣り具の売り上げはコロナ前より約2割伸び、「釣りブーム」ともいわれる。
こうした状況に目を付けた愛媛県は今年度、県南部に滞在して釣りを楽しみながら働く「ワーケーション」の誘致に乗り出す。8月~来年2月、仕事の合間に地元漁師が船釣りや磯釣りを指南する「釣り道場」を計5回開催。2022年度予算に990万円を計上した。
将来的な移住の予備軍を育てる狙いもあり、県の担当者は「釣りの腕を磨こうと何度も訪れることで、愛媛に愛着を抱き、そのまま住んでほしい」と期待する。
北九州市では18年、地元の遊漁船業者や旅館など30社以上が「北九州釣りいこか倶楽部」を設立。船の手配や釣った魚の調理、飲食、宿泊をパッケージで提案。延べ約5000人が利用し、リピーターも多い。
熊本県上天草市は釣りに特化した地域おこし協力隊員を21年10月に採用し、観光プランの企画などに携わる。釣り専門紙に市内の記事を書く「釣りライター」の育成にも取り組み、講座を受けた7人が魅力を発信している。
国も後押し
釣りを禁じる漁港や防波堤は多かったが、国は地域資源としての活用に乗り出した。
国土交通省は19年から、釣りによる地方創生を図る港湾を「釣り文化振興モデル港」として指定。現在、高知(高知県)や別府(大分県)など16港に上る。観光振興のほか、釣り客のマナー向上や安全対策の取り組みを支援する。
また、今年3月に閣議決定された漁港漁場整備長期計画(22~26年度)には、「漁港の多様な利活用の促進」が盛り込まれた。水産庁は、漁業者の減少で増えた漁港の空きスペースで釣り客を受け入れようと、ルールづくりを進める。