咲洲庁舎に入居のホテル 滞納2年半、損害金かさみ19億円…大阪府「支払い・立ち退きを」 運営側「騒音対策費と相殺」
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大阪府

エレベーター
ホテルは2019年1月に開業し、咲洲庁舎(55階)の7~17階に入居。賃料は月額約3500万円(税込み)で、全371室の全面開業に向けて段階的にオープンする予定だったが、コロナ禍の影響などで現在は263室で営業している。

しかし、開業9か月後の同年10月には賃料の支払いが滞り、府は賃貸借契約を解除した上で、20年11月に府と賃貸借契約を結んでいた「さきしまコスモタワーホテル開発」と運営会社「さきしまコスモタワーホテル」などを相手取り、賃料の支払いと退去を求めて大阪地裁に提訴した。
契約では、契約解除後にフロアを明け渡さなければ、賃料の2倍相当の損害金を支払うと規定。ホテル側への請求額は月7000万円に増えており、現時点で未払い賃料などの総額は約19億円に上るとみられる。
府とホテル側の対立原因の一つが、エレベーターの昇降時に客室に響く騒音だ。
ホテル側は契約後、客室内の音が最大65デシベルと走行中の自動車内ほどもあることが判明したとして、「府は建物の欠陥を隠していた。知っていたら契約しなかった」と主張。約4億円をかけて改修して騒音は軽減されたが、客室に適したレベル(35デシベル以下)にするには、さらに約36億円の改修費用が必要として、賃料と相殺するよう求めて反訴した。
一方、府は「入居フロアはもともとオフィス仕様。用途変更は入居者が負担する条件で公募しており、妥協するつもりはない」として一歩も引かない構えだ。
コロナ禍
未払いが続く背景にはコロナ禍の影響もある。ホテルは訪日外国人客が激減。19年度に70%だった客室稼働率は、20年度には15%にまで落ち込み、両年度とも赤字だった。ホテル側は賃料減免も求めているが、府は同庁舎の他のテナントに減免を認めておらず「特別扱いできない」との立場だ。
ホテルの稼働率は21年度に39%まで持ち直し、さらに今年からはビジネス客など国内の誘客に重点を置き、4月の稼働率は75%まで上昇。秋頃には賃料が支払えるレベルに業績が回復する見通しだという。
一方で、新型コロナの感染状況が悪化すれば、再び宿泊客が減少する可能性もあり、対立が続く中でホテルの経営が悪化すれば、府は巨額の賃料の回収ができなくなる懸念もある。
ホテルがある咲洲は、25年大阪・関西万博の開催地で、カジノを中核とした統合型リゾート(IR)の候補地でもある
咲洲庁舎はテナント不足で維持管理費が賃料収入を上回る状況が続き、オフィスと店舗に限っていた用途制限を緩和してホテルを誘致した経緯がある。ホテルが退去すれば入居率は80%台半ばから60%台に落ち込み、府にも退去後の活用策のあてがあるわけではない。
さきしまコスモタワーホテル開発の社長(60)は「滞納は事実だが、府との協議中に契約解除されたので争わざるをえなくなった。業績が回復すれば賃料も支払う用意はある。一緒に大阪を盛り上げようと多額の投資をして開業しており、元の良好な関係に戻って営業を継続したい」と話す。
「負の遺産」更なる損失も
「負の遺産」と言われてきた大阪府咲洲庁舎には、巨額の公金がつぎ込まれてきた。1995年に大阪市の第3セクターが約1200億円を投じて「大阪ワールドトレードセンタービルディング(WTC)」を建設。しかし、入居率は低迷して3セクは経営破綻した。
WTCの活用を目指したのが当時の橋下徹知事だ。老朽化した府庁舎の全面移転を目指したが、移転条例案は府議会で2度にわたり否決された。この際、自民党の松井一郎府議(現大阪市長)ら移転推進派が結成した新会派が、地域政党・大阪維新の会の源流となった。
府は2010年にWTCを約85億円で購入したが、翌年の東日本大震災で壁面が落下するなど防災上の問題点が浮き彫りになり、府は全面移転を断念。府の一部部局は移転したが、一時は空室が4割に上るなどテナント不足が続き、府はホテル誘致に乗り出した。