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広島、岡山、愛媛3県を中心に300人以上が犠牲になった西日本豪雨(2018年7月)で、大きな被害を受けた岡山県倉敷市真備町を題材に、倉敷芸術科学大(倉敷市)の学生が、避難などの行動計画を定める「マイ・タイムライン」の大切さを呼びかける漫画を描いた。指導教員の被災体験や被災者への取材を基に仕上げた。防災教材として、6月には市内の小中学生約4万人に配布され、子どもたちに防災について考えてもらっている。(矢沢寛茂)

制作したのは同大学芸術学部4年で、プロの漫画家としても活動する
昨年春、国土交通省の現地事務所から、マイ・タイムラインを幅広い世代に普及させるためのPR漫画を作ってほしいという依頼が、同大学講師、松田博義さん(38)にあり、教え子の中務さんに協力を求めた。
4年前、広島県尾道市の実家にいた中務さんは豪雨の激しい雨音を今も覚えている。真備町に住んでいた松田さんからは、自宅が2階まで浸水し、屋根の上で一昼夜を過ごして救助された体験などを聞き、「防災に役立てられるのなら」と引き受けた。
作品名は「僕に出来ること~大切な人を守るための要配慮者マイ・タイムライン~」(B5判24ページ)。真備町に住む小学5年生の男の子が、未来からタイムスリップしてやって来た自分から、真備町が豪雨で水没し、同居する足の悪い祖母が「家にいた方が安心」と避難せず、亡くなったことを知らされる。男児は悲劇を回避するために、時系列で避難する順序などをまとめたマイ・タイムラインを作り、祖母を救う――。
少女漫画の雑誌にギャグ漫画を掲載する中務さんは、子どもたちに関心を持ってもらえるよう、登場人物のコミカルなやり取りなども交え、堅苦しさを感じさせない「SFコメディー」作品に仕上げた。
実際に真備町で自宅から逃げずに被災した高齢女性らの自宅も訪ね、「迷惑をかけたくない」「2階まで水が来ないと思った」など当時の話を聞き、登場人物のセリフに反映させた。
作品を受け取った国交省の担当者は「マイ・タイムラインの重要性や作成する時の留意点などもわかりやすく紹介している」と評価。倉敷市教育委員会は教材に使うことを決め、6月に児童、生徒に配布した。防災を学ぶ授業で漫画を読んだ児童からは「家族と避難について話したい」「逃げるのをためらう人がいるのを知らなかった」などの声が上がったという。
中務さんは「豪雨災害が発生しやすい時期に見てもらえてよかった。避難の一歩を踏み出す意識を持ってもらえたら」と話す。
作品を監修した松田さんは「私が被災した時は逃げることも誰かを助けることもできなかった。子どもたちには自分の祖父母を思い浮かべながら読んでほしい」と語る。
マイ・タイムライン 避難先や経路を各自で確認し、台風の接近や大雨の予報などが出た場合に、どの時点で避難するといった具体的な行動を時系列に沿って事前に決めておく個別の避難計画。2015年の関東・東北豪雨で逃げ遅れなどが相次いだことをきっかけに、国土交通省などが普及を進めている。