「もう、さようならです」 妹の最期の声に今も耳澄ます

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塩崎さんの思い出を振り返り、墓前で涙する水口さん
塩崎さんの思い出を振り返り、墓前で涙する水口さん

 発生から4日で2年となる九州豪雨で、八代市坂本町で妹、塩崎つぼみさん(当時68歳)を亡くした水口 章子あきこ さん(72)(兵庫県宝塚市)は、塩崎さんの携帯電話を大切に保管している。「もう、さようならです」。自宅跡で見つかり、濁流にのまれる直前のやりとりが録音されていた。今でも時折聞き返す。妹が最期まで生きようとした証しだから。(前田敏宏)

 「暑くなったね。走ったり、躍ったり、楽しい時間を過ごしているかな」。球磨川沿いのJR坂本駅(八代市坂本町)近く。水口さんは1日、塩崎さんの墓前で手を合わせた。幼少期に自転車の事故で足が不自由となって避難できず、自宅で亡くなった。

 豪雨が襲った朝、宝塚市にいた水口さんの携帯が鳴った。「水があふれている」。塩崎さんからの連絡だった。すぐに近隣の警察や消防に救助を求めた。「屋根に上って」と応答されたが、足が不自由でかなわず、数日後、室内で遺体が発見された。

 塩崎さんは5人きょうだいの末っ子。家族思いで、きょうだいで唯一、実家に残った。水口さんが子供2人を連れて帰省すると、我が子のようにかわいがった。水口さんの長女、西川寛子さん(45)は「優しくて、思いやりがあって。もう一人の母のような存在」と懐かしむ。

 塩崎さん方は昨冬、解体されたが、最期まで助けを求めた携帯が被災後、泥の中から見つかった。水没したはずなのに電源が入り、親族らとの通話が録音されていた。「水で体が浮き上がった」「まったくどうにもできない」。意図したのか、偶然かはわからない。けれど、生前の声が確かに残されており、今年も命日を前に聞き返した。

 携帯は解約したが、水口さんは月命日や節目には塩崎さんの番号にメールを送る。古希となるはずだった2月の誕生日には「おめでとう」と打った。未配信と通知されても、届いていると信じている。

 豪雨の前、塩崎さんに「(テレビ電話で)顔を見て話せるスマートフォンにかえよう」と提案したが、かなわなかった。遺体は傷みがひどく、顔を見られなかった。「まさかが起こるのが災害。正しく恐れてほしい」と話す。

 3日には八代市の追悼式が開かれ、兄の塩崎忠夫さん(83)が遺族代表として言葉を述べる。水口さんは妹の携帯を持って参列する。終わったら、メッセージを送るつもりだ。「つぼみの分も今を大切に生きていくね」

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