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    対話通じ考えを深化

    • 博物館では子ども向けイベントも充実。「好きな物を好きなだけ眺めていてもいい。自然界にあるのは優劣ではなく、多様性であることを感じられる」と話す塩瀬さん(左京区で)
      博物館では子ども向けイベントも充実。「好きな物を好きなだけ眺めていてもいい。自然界にあるのは優劣ではなく、多様性であることを感じられる」と話す塩瀬さん(左京区で)

     ◇学び方変革を訴える 京都大准教授・塩瀬隆之さん45

     「海外の研究では、2007年生まれの子どもの半数は107歳まで生きるとされる。人生100年時代には、人生80年の頃の知識や学校の役割は異なるか。はい、話し合って」

     昨年12月、京都市内で府内外の教職員約100人が集まった研修会。3人1組の議論が繰り広げられてきた会場が一瞬静まったのは、教員が自分の教え子たちがたどる人生の長さを再認識した時だった。子どもたちが直面するのは、更なる長寿化だけでなく、人口減の拍車がかかる未体験の時代。「学校では、簡単に答えが出せない問いに取り組む練習をしてほしい」と力を込める。

              ◇

     一度、学府を離れている。

     東日本大震災が発生した2011年当時は、人と意思疎通をはかるロボットやコミュニケーション技術を研究する京都大准教授だった。その秋、津波で校舎が被災した宮城県石巻市の中学生を修学旅行で京都に招く企画に参加し、生徒に問われた。「まちの復興に役立つとは思えない受験勉強を、僕たちはしていていいんですか」

     地元は大きな被害を受け、仕事もほとんどない。今詰め込んでいる知識で何を切り開けるのか――。将来への不安の切実さに、学校での勉強が社会で生き抜く力とかけ離れていると感じざるを得なかった。「学校から社会に居場所を移した時に求められる力を見極めなければ」と、12年6月、京大の職を辞し、直後に経済産業省に入省。兼業・副業解禁の下地作りに関わるなど、政策立案の前線から多様化する社会を眺めた。

     考え至ったのは、過去のスキルが通用しない新たな環境に飛び込むには、“何とかなる”という楽観性や、その都度必要な技を周囲から得る「学び続ける力」を鍛えなければということだった。「それはやっぱり、教育でしかできない」。新たな気づきと共に、2年後、再び研究者の道に戻った。

              ◇

     京都大総合博物館に所属し、大学で博物館展示論などの教べんをとる傍ら、対話の可能性を体感できるイベントや研修などで全国を飛び回る日々。

     研修会では、かしこまって聞く校長や企業幹部にまず、自らネクタイを外させ、「考えて話す」というアクティブ・ラーニング(AL)を疑似体験してもらう。「主体的・対話的で深い学び」と訳されるALの手法は、2年後に全科目で導入される予定だが、当の教員も初めてとあって戸惑いも多い。議論と考察を重ねることで、予想外に自分や他者の考えを掘り下げられる。それを実感してもらうのが、最初の一歩だ。

     異文化や世代間の隔絶が懸念される今、対話の重要性は一層高まっていると感じる。将来、AI(人工知能)が人の様々な仕事に取って代わろうとも、他者との対話で考えを深化させる営みは奪えないはずだ。

     「学問とは対話を通じて他者の意見を知り、自分を更新し続けること」。ロボットと人の関係以上に、人と人の意思疎通の奥深さに興味は尽きない。(川崎陽子)



     しおせ・たかゆき 大阪府枚方市出身。京都大工学部、同大学院で精密工学を専攻。博士(工学)。科学的な見方を伝える教育番組「カガクノミカタ」の制作を手がけ、中央教育審議会専門委員も務める。

    2018年02月26日 05時00分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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