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◇演出家 あごうさとしさん 41

新劇場の予定地で、劇場開設への意気込みを語るあごうさん(南区で)
新劇場の予定地で、劇場開設への意気込みを語るあごうさん(南区で)

 南区で、2019年夏に小劇場(約90席)を開館させようと奔走している。鉄骨2階建ての倉庫を改修する予定で、調査費や設計費をインターネットで募ったところ、昨年9月、目標を500万円上回る1900万円が集まった。「もう後戻りできない」。喜び以上に、責任の重さが胸に迫った。

 8か月前、狂言師の茂山あきらさん(66)らとともに、劇場開設に取り組む一般社団法人「アーツシード京都」を設立し、代表に就いた。活動の中心としていた「アトリエ劇研」(左京区)は、高齢化したオーナーの意向で閉鎖されることが決まっていたからだ。京都市内の劇場は近年、老朽化もあって相次ぎ姿を消している。「劇研の後を継ぐ場所を作りたい」。そんな思いが背中を押した。

 演劇に興味を持ったのは、中学1年の時、文化祭で上演する劇の台本を書いたのがきっかけだ。事件の犯人を暴くミステリー。今思うと単純な物語だったが、仲間たちと舞台を作り上げる楽しさや、未知の世界を創り出すという底知れない魅力を味わった。

 同志社大学で、キムラ緑子や小市慢太郎ら実力派俳優を輩出してきた学生劇団「第三劇場」に参加。「プロの匂いがする」空間で舞台の奥深さに魅了され、演劇漬けの学生生活を送った。

 卒業後、半年ほど広告会社に勤めたが、大学の先輩の演劇仲間に誘われて退社。01年、劇団「WANDERING PARTY」を旗揚げし、1公演で200人入れば上々とされる中、800人以上を動員するほどの人気を博した。

 だが、作品や劇団の質を高めようと思うほど、団員たちに厳しく接してしまい、心が離れていった。結成10年で解散。「人を描く芸術に関わりながら、人の心がわからなかった」と、大きな挫折を味わった。

 それからは固定したメンバーで作品を作るのをやめた。他者と理解しあう難しさをテーマに、演技は素人のダンサーや哲学者、犬を共演させるなど、実験的な演劇に取り組んできた。14年9月、37歳の時にアトリエ劇研で上演作品を決めるディレクターに。茂山さんのように、芸術に対する熱い思いを共有する仲間もできた。

 新たな劇場を作ろうと考えている東九条地域は、京都市が芸術などを柱にまちづくりを進めようとしている場所でもある。

 「地域に愛されていなければ人は集まらない」と、住民との交流も始めた。昨年8月には、茂山さんと長男の童司さん(35)による狂言を上演。子供からお年寄りまで大勢の人がユーモラスな表現に笑い、大きな拍手を送った。「この場所ならやっていける」と、手応えを感じた瞬間だった。劇場の名前は「East=東」と「9=九(条)」を合わせて、「Theatre E9 Kyoto」にすると決めている。

 平成が終わり、次の時代とともに幕を開ける新たな劇場。実現に必要な資金はあと一歩のところまで集まったが、これからが正念場だ。「育ててもらった京都で、次の世代に劇場文化をつなげたい」(今岡竜弥)

 

 ◆本名は「吾郷賢(あごう・さとし)」。大阪府出身。「若手演出家コンクール2007」最優秀賞、京都市芸術新人賞(17年度)受賞。国際的に活躍する美術家・森村泰昌さんのパフォーマンスの演出なども手がける。新劇場の設備費にあてる寄付をクラウドファンディングの「Readyfor」で、12月20日まで募っている。

45393 0 きょう・人・十色 2018/10/22 05:00:00 2018/10/22 05:00:00 「反動的だったり、オルタナティブ(別の選択肢)だったりする表現が生まれるには、まず軸となる劇場がなければ」と語るあごう(南区で) https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20181021-OYTAI50011-T.jpg?type=thumbnail

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