<4>思いや教訓 筆にのせ
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◇清水寺 森清範貫主78
◇書も布教も努力必要
世界遺産・清水寺(東山区)の森
「今年の漢字」の揮毫は、日本漢字能力検定協会の理事長から頼まれて引き受けました。漢字の普及につなげたいとの趣旨に賛同したからです。選ばれた漢字を知るのは毎年、発表当日で、書くのは本番1回だけ。練習しなくても、イメージはわきますから。
15歳の時に清水寺で修行を始め、書を習うようになりました。師匠の大西良慶元貫主(1875~1983年)になかなか字がうまくならないと相談したところ、師匠は「一字稽古したら、一字分が手に入る。積み重ねが大事なんや」とおっしゃった。その言葉を胸に今も毎日、書いています。
〈1995年に始まった「今年の漢字」で、最多の得票は東日本大震災が起きた2011年の「絆」(6万1453票)。「災」や「震」など、災害に由来する漢字も多かった〉
東日本大震災では、知り合いの僧侶らを集め、約50人で宮城県気仙沼市に行きました。法要をすると、参加した人たちは涙を流してね。私はおばあちゃんの手を握って、「残念やね」「つらいね」と声をかけました。気持ちを一つにしていくしかないと、つくづく思いました。
仙台市のデパートからは、義援金箱に添える字を書いてほしいと頼まれました。復興の「興」にしようかと思いましたが、復興のもとになるのは人と人との「絆」だと思い直し、「絆」と書いた。その年の「今年の漢字」に「絆」が選ばれたのは、皆が一つになろう、手をつないでいきましょうという気持ちの表れでしょう。
「災」などの漢字が多く選ばれたのは、災害に対する備えや心得をちゃんと持たなければいけない、ということを意味しているのではないでしょうか。平成の教訓を、次の時代に生かしていかなければなりません。
〈清水寺の貫主に就任したのは、平成元年の前年(1988年)。寺のトップとしての歩みは、平成の30年間と重なる〉
33年に1度となる本尊・十一面千手観音立像のご開帳(公開)が2000年に予定されていました。観音信仰を流布するよい機会ととらえ、重宝類を展示する「清水寺展」を全国各地で開き、「ご開帳の時にはぜひ京都に来て、観音さんに手を合わせてほしい」と呼びかけました。
仏の教えを広めていくためには、努力がいる。少子化で人口が減ることは寺の運営上大きな問題ですが、人が多くなろうが少なくなろうが布教活動をやらなければならない。音楽をやっても、紙芝居をやってもいい。どんな形でも、お寺に親しんでいただくことが大切だと思います。
〈清水寺では20年12月まで、50年に1度の「平成の大修理」が行われている〉
本堂の屋根のふき替えや仏像の修理などを急ピッチで進めています。完成すれば、見違えるように、寺が再建された380年前の姿がよみがえる。清水寺は本来、観音さんの浄土を表しています。お参りいただければ、心が清められると思います。(聞き手・持丸直子)
◇24回の得票数「災」トップ

公益財団法人「日本漢字能力検定協会」(東山区)が毎年公募している「今年の漢字」で、平成時代の24回の上位10位の得票数を漢字別で集計すると、トップは「災」で、7万7921票を集めた。
「災」は過去7回、10位以内にランクイン。04年と18年には得票数トップの「今年の漢字」に選ばれた。累計の2位は「絆」(計6万2915票)、3位は「震」(同3万9726票)、4位は「変」(同2万8547票)だった。
一度も「今年の漢字」に選ばれたことはないが、10位以内に16回も入った「乱」が累計では5位となった。
◆もり・せいはん 1940年、京都市生まれ。55年に得度。清水寺で修行をしながら高校に通い、花園大を卒業。清水寺法務部長などを経て88年に貫主に就任。法話集「心を