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人間の疾患研究に期待
遺伝子の研究に欠かせない実験生物・ショウジョウバエを収集し、国内外の研究施設に提供する京都工芸繊維大の「京都ショウジョウバエストックセンター」(右京区)の高野敏行教授らの研究グループが、ハエに生じた遺伝的な特徴を効率よく保存する方法を開発した。同センターはショウジョウバエ研究の世界最大級の拠点で、新技術を生かし、今後いっそう人間の疾患研究への活用が期待される。(三味寛弥)
ショウジョウバエは、他の実験動物に比べて遺伝子を改変するのが容易で、10日ほどで世代交代することから生命科学研究には欠かせない存在。実験動物として100年あまりの歴史があり、人の病気を引き起こす遺伝子の7割を持つ。このことから近年、認知症や神経難病など有効な治療法がない病気の薬を開発する研究に利用されている。
一方で、特定の病気のモデルになるハエを作り出しても、世代を重ねるなかで遺伝子に変化が起きる頻度が高いため、産卵させて成虫を育てるだけではせっかくの遺伝的特徴を保存するのが難しかった。従来は卵巣や受精卵を凍結保存する手法が試されてきたが、容易に成虫に育てられないという欠点があった。
そこで研究グループは、卵子や精子の基となり初期の受精卵に存在する「始原生殖細胞」に着目。液体窒素で凍結保存したこの細胞を融解して受精卵(胚)に移植すると卵子や精子になり、受精させると目的の遺伝的特徴を持った成虫に育つことを突き止めた。
長期間の凍結保存の影響を検証する必要があるが、高野教授らは昨年4月からセンターで技術を実用化。特に保存の必要性が高い約2000通りの遺伝的特性を持つ始原生殖細胞の凍結保存を進めている。
高野教授は「凍結保存の実用化技術として確立させ、医療や創薬、生命科学の研究の進歩を支えたい」と話している。