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九州・沖縄で主要な作物の一つとして農業を支えてきた葉タバコ農家が減少を続けている。需要低迷を背景に、日本たばこ産業(JT)は2022年の廃作を募集し、3割を超える農家が応募した。この20年で8割減ることになる。耕作放棄地の増加を防ぎ、農家の生活を支えるため、政府や自治体は転作を支援する考えだ。(橋谷信吾)
「風当たり強い」
鹿児島県出水市のビニールハウスで1月下旬、葉タバコ農家10戸が共同で種まきを行った。粉末のように細かな種は砂に混ぜ、並べられたプランターにまく。温暖な気候に適した「黄色種」と呼ばれる香り豊かな品種で、葉1キロ当たり2000円を超える最高級品だ。苗が育つと、各農家が持ち帰って3月に畑に移す。5~7月に収穫を迎える。

ただ、今年の種まきに参加した農家は昨年より6戸減った。JTの廃作募集に応じ、栽培をやめたからだ。
紙巻きたばこの販売減少に伴い、JTは昨年7月、22年産の廃作募集を始めた。12年産以来、10年ぶりの募集で、全国1729戸が応じた。このうち九州・山口・沖縄は農家の34・8%に当たる535戸に上った。
宮崎県国富町の瀬尾透さん(58)も廃作を決めた。140アール(1アール=100平方メートル)の畑では、スイートコーンなど付加価値の高い野菜に転作する予定だ。瀬尾さんは「葉タバコは夏場の収穫が重労働でたばこへの風当たりも強い。胸を張って育てていけなくなった」と心境を語る。
10位までに7県
九州・沖縄は、東北地方と並ぶ葉タバコの産地として知られる。JTの21年産の契約実績では、都道府県別の耕作面積で熊本が全国トップ、沖縄が2位に入る。九州・沖縄で福岡を除く7県が10位までに名を連ねる。

JTは契約農家から全量を買い取る。鹿児島県たばこ耕作組合によると、150アールの栽培面積で平均約1000万円の収入があり、経費を引いても5~6割は残り生活は安定する。地域によっては飼料米など二毛作も可能だ。遠矢忠雄組合長は「鹿児島の代表的な農産物で歴史もある。若い農家が20年、30年と栽培できるようにしたい」と語る。
しかし、健康志向や相次ぐ増税でたばこ需要は減少し、全国たばこ耕作組合中央会によると、20年産の生産高は全国で270億円。九州・山口・沖縄は161億円と全国の6割を占めるが、00年より7割減った。農家の高齢化が進み、将来への不安から後継者不足も深刻で、農家数も減少を続けている。
そんな中でのJTの廃作の募集は、協力金として10アール当たり36万円が支払われる。農家の平均年収に相当する額だ。高齢化した多くの農家が一時金を受け取れるのを機に廃作を決断したとみられる。
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