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国内の供給網強化 用地確保が課題
九州・山口で工場の新増設が相次いでいる。新型コロナウイルス禍で設備投資を控えていた動きが一服し、本格的な経済活動の再開に向けて生産能力の増強を図っている。経済安全保障としての国内の供給網強化や、地理的な優位性を生かしてアジアに向けた生産拠点を整備する狙いもある。産業の集積を進めるには工場用地の確保が課題となる。(橋谷信吾)
復活の一翼

半導体大手のロームが福岡県筑後市に増設した生産棟で6月、開所式が行われた。200億円を投じた新棟では、工場の心臓部とも言える「クリーンルーム」の天井にレールが敷かれ、箱形の搬送ロボットがせわしく半導体を運んでいた。
ロームが国内で工場を増設するのは14年ぶりだ。次世代の主力と位置づける炭化ケイ素(SiC)を素材とした省電力の半導体で、12月に本格稼働し、電気自動車(EV)などの重要部品となる。市場拡大を見込み、2025年度までに筑後工場や宮崎市の子会社工場などに最大1700億円を投じ、生産能力を現在の6倍に高める。松本功社長は「シリコンアイランド九州の復活の一翼を担いたい」と意気込んだ。
半導体と並ぶ九州の主要産業である自動車関連では、仏自動車部品大手のヴァレオが8月にも福岡県苅田町の新工場を本格稼働させ、九州に拠点を置く自動車メーカーとの取引拡大を狙う。
面積2倍
九州経済産業局によると、九州7県で企業が工場建設を目的に1000平方メートル以上の用地を取得した件数は、21年に79件と前年より4割多く、3年ぶりに増加した。7割が新設だ。面積はほぼ2倍となり、過去10年で2番目に大きい。22年も工場立地の計画が続いており、用地取得を伴わない増設も多い。後藤雄三局長は「調査に表れない設備投資や増設の動きも出ている」と手応えを語る。
背景には、コロナ禍からの世界的な景気回復に加え、政府が経済安全保障として半導体など国内の供給網強化を打ち出し、補助金などで製造拠点の国内回帰を促していることがある。
産業・医療用機器メーカーの日機装は24年7月に宮崎市で、透析医療に使う「血液回路」の新工場を稼働させる。国内シェア(占有率)は5割を超え、タイとベトナムで全て生産しているが、新型コロナの影響で供給が滞った教訓から国内の生産体制を整える。日機装は「生命に関わる製品を届ける責任がある。供給網の再構築が必要だ」とする。
輸出拠点に
アジアへの輸出を見据えた製造拠点の整備も相次ぐ。資生堂は、5月に完成した福岡県久留米市の工場で、国内のほかアジアを中心に展開するブランド「エリクシール」などの生産を始めた。博多港から短期間でアジアに出荷できる利点を生かし、「日本製はブランド力があり、輸出を伸ばしたい」と期待する。

棒ラーメンのマルタイは3月、佐賀県唐津市の新工場を稼働させた。「巣ごもり」需要で好調な国内だけでなく、アジアや欧米への輸出も見据え、食品衛生の国際規格の取得を目指す。
自治体にとって工場立地は多くの雇用と多額の税収が見込める。ただ、工場用地はどこも不足しており、各自治体は産業集積に向けて用地整備を急いでいる。
半導体受託製造「台湾積体電路製造」(TSMC)が進出する熊本県は21年度の企業誘致件数が過去最多になった。「周辺用地が不足気味だ」(県企業立地課)として26年度までに約70億円をかけて計約50ヘクタールの工業団地を整備する。
福岡県は4月、苅田町で工業団地約30ヘクタールの整備を始めた。山口県は約20年ぶりに工業団地の造成に着手する。光市に8ヘクタールを整備する予定で、県企業立地推進課は「大規模な工場誘致には用地が足りない。地域間競争を勝ち抜くには、早期確保が不可欠だ」としている。
自動化で生産性向上
各社は最新のデジタル技術や自動化技術を導入して、人手不足対策や生産効率化を図っている。
資生堂の久留米工場は、あらゆるモノをインターネットにつなげる「IoT」の最先端技術を採り入れた。これまでベテラン社員の経験や知識に頼っていたが、センサーで品質を監視して数値化し、設備を自動制御する業界初の機能を導入。経験の浅い社員でも「
ロームの筑後工場では、人に代わりロボットが製品を運び、数十人分を省人化した。マルタイは、これまで手作業だった粉末スープや調味油を入れる工程や箱詰め作業を自動化し、生産能力は15%増えて1日20万食になった。
