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[解藩知県]遺風<10>藩校の教育理念 今も

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 江戸時代に藩士の子弟の教育機関として全国に作られた藩校では、儒学を基に各藩の理念や地域の風土に合わせた人材育成が行われた。1871年(明治4年)の廃藩置県で廃止された後も、その流れをくむ学校が、教育の志や伝統を受け継いでいる。(北村真)

吉田松陰の言葉を朗唱

 「徳に報(むく)ゆるに心をもってし 恩を復(かえ)すに身をもってす」。3日朝、山口県萩市の市立明倫(めいりん)小の6年の学級。児童30人が幕末の思想家、吉田松陰(1830~59年)の言葉を元気よく読み上げた。

 同小は1719年に設立された長州藩の藩校「明倫館」の跡地に立つ。校舎横には水泳や騎馬訓練が行われた池も残る。

 松下村塾で維新の指導者を多く育てた松陰は、明倫館の師範でもあり、木戸孝允、高杉晋作らもここで学んだ。同小では40年ほど前から、生きる力を育む教育の一環で、松陰の言葉の朗唱を続けている。「私を役(えき)して公に殉(したが)う者を大人と為し 公を役して私に殉う者を小人と為す」など18の言葉を1年生から6年間かけて学ぶ。

吉田松陰の言葉を朗唱する明倫小の6年生たち(3日、山口県萩市で)=大野博昭撮影
吉田松陰の言葉を朗唱する明倫小の6年生たち(3日、山口県萩市で)=大野博昭撮影

 卒業生で同小元校長の柳林浩一さん(63)は「公に尽くす精神を説いた松陰先生の言葉を、自分自身の言動と照らすことで、児童は志を受け継ぎ、行動の指針としています」と話す。6年の熊谷心花(こはな)さん(12)は「自分ではなく人のために、という意味の言葉が多く、目標になっています」と語る。

不屈の精神、合言葉に

 明倫小と同様、藩校の名を受け継ぐ福岡県立育徳館高(みやこ町)は、2000年代に藩校名が約130年ぶりに復活した珍しい事例だ。

 同校には地名「錦原」にちなむ「錦陵(きんりょう)魂」という合言葉がある。「果敢に挑戦し、何度でも立ち向かう不屈の精神」を意味し、受験勉強や部活動などで伝統的に使われている。精神の原点には幕末から廃藩置県にかけての藩校の歴史がある。

 同校は小倉藩の藩校・思永館の前身が設立された1758年を起源とする。小倉城内にあった思永館は、幕末の長州藩との戦いで焼失し、藩は現在の福岡県香春町に撤退。さらに拠点をみやこ町に移し、豊津藩と称した。こうした混乱期にも藩校は運営され、移転の過程で育徳館と改称した。「藩の再興には何よりも教育が重要と考えたからこそ、苦境の中でも藩校運営を続けたのでしょう」と藤田重則校長はみる。

 明治以降、校名は度々変わったが、中高一貫化に伴い、育徳館建学の歴史が見直され、2003年に中学校で校名が復活。07年に高校も現校名となった。「こここそは学問の城」「雪の日も嵐の朝もたじろがず学にいそしみ」――。藩校時代から受け継がれる学問の志は、校歌にも示されている。

 1670年に開校し、九州最古の藩校とされる大村藩の五教(ごこう)館(当初は集義館)。跡地に立つ長崎県大村市立大村小には、1831年の移転時に藩主のために作られた「五教館御成門」が残る。入学式や卒業式、教職員の離着任の際にのみ開かれ、門をくぐる伝統がある。大村小の歴史や誇りを実感できる象徴で、18日の卒業式では6年生が門から学びやを後にした。

様々な形で継承

 藩の遺風は、様々な形で受け継がれている。福岡県立修猷館高(福岡市)は、1784年に藩校を開校した時の儀式で掲げられた孔子聖像を入学式で披露し、新入生が建学の精神を学ぶ伝統がある。

 久留米藩主の有馬家が設置した藩校の流れをくむ福岡県立明善高(久留米市)や、大村小に近い長崎県立大村高(大村市)は、旧藩主の家紋を校章のモチーフとしている。宮崎県立高鍋高には、藩校を開いた高鍋藩主・秋月種茂の教育理念を刻んだ碑が残る。

 藩校に詳しい辻本雅史・京都大名誉教授(日本思想史)は「明治の近代化の速やかな達成には、藩校教育が基礎となった。藩校は学ぶ姿勢や方法を教え、生徒は自ら考え、実践した。その遺風や伝統は各校で引き継がれ、郷土愛の醸成や地域を担う人材の育成につながっているのではないか」と話す。(第1部おわり)

=2021年3月27日 読売新聞文化面(西部本社版)掲載=

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