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来場者が減少している福岡市の「油山市民の森」(南区、城南区)が、アニメのキャラクターなどに

市民の森で11月下旬に開かれたコスプレの撮影イベントに、市内外から約30人が集まった。人気漫画「鬼滅の刃」の主人公になりきり、着物姿で撮影した同市西区の高校2年の女子生徒(16)は「モミジがとてもきれい。和装が映える写真が撮れた」と喜んだ。
市の委託を受けて施設を管理運営する「福岡市市民の森協会」によると、油山(597メートル)の中腹に位置する市民の森は1969年に整備された。94ヘクタールの敷地には20種類以上、約10万本の樹木や水辺がある。ピーク時の79年には年間42万人が来場したが、近年はレジャーの多様化などの影響で半分以下に落ち込んでいる。
そうした中、8年ほど前から「森の中で撮影会がしたい」という問い合わせが入るようになった。想定外の申し出に当初は戸惑った協会だったが、「露出の多い衣装や恐怖感を与えるような衣装は控える」「銃や刀剣などの道具は撮影時のみ扱う」などのルールを定め、受け入れを決めた。
「更衣室」バンガロー開放で利用増
コスプレの利用が増え出したのは約5年前から。キャンプ客用に設置した15棟のバンガローを、更衣室として貸し出すようになったのがきっかけだった。凝った作りが多いコスプレの衣装は着替えに時間がかかるため、バンガローの開放は歓迎された。
コスプレ歴15年で、市民の森も利用したことがある同市中央区の女性(31)は「公共施設が撮影許可だけでなく、更衣室まで貸してくれるケースは珍しい。野外の撮影では車内で着替えることが多いので、広い部屋で準備できるのはありがたい」と話す。利用料は1日1500~2000円。居合わせたコスプレーヤー同士で折半するケースもあるという。
協会によると、バンガローの2019年度の利用は166件で、前年度の約3倍に急増。うち半分以上はコスプレでの利用だった。20年度は新型コロナの感染拡大で利用は67件にとどまったものの、コスプレ目的の利用が8割を占めた。21年度は感染状況に合わせて駐車場を断続的に閉鎖していたが、10月の再開以降、各地から撮影依頼の連絡が寄せられている。
協会担当者は「市街地から近いうえ、春はサクラ、夏は水辺、秋は紅葉、冬はツバキなど、季節ごとの自然を背景に撮れることが喜ばれている」と説明。市の担当者は「行政では思いつかなかった利用方法。散策やキャンプといった本来の利用客が減る中で、貴重な伸びしろになっている」と話す。
市民の森は設備や遊具が老朽化し、23年度中の全面改修が計画されている。管理運営する事業者も変更される予定で、市森林・林政課の野見山聡課長は「何らかの形でコスプレーヤーが利用し続けられるよう、新たな事業者にも働きかけたい」と話している。
コスプレイベントは近年、各地で行われており、地域活性化や新たなビジネス創出につながっている面もある。横浜国立大の須川亜紀子教授(ポピュラー文化論)は「SNSの普及で、衣装がより『映える』場所を求めるコスプレーヤーが増えた。自治体にとって、コスプレイベントは交流人口の増加や経済効果を見込めるものになっている」と指摘する。