完了しました
福岡県遠賀町の絵本作家・さかいみるさん(51)が、自らの作品を東日本大震災の被災地に送り続けている。「笑顔になってもらいたい」。そんな思いで始めた活動は、震災発生から11年で約15万冊となった。絵本を手に取った子が成長して活動に参加するなど、善意の輪も広がっている。(瀬戸聡仁)

「絵本deえがお」と銘打った取り組みのきっかけは、2011年3月の被災地の状況を伝えたテレビの映像だった。津波で家族を失った女性が泣き崩れている姿を見たみるさんは「何かしなければ」と強く思ったという。
合わせて脳裏をよぎったのは、被災地の子どもたちだ。みるさんは震災の数年前に、宮城県七ヶ浜町のアートイベントに参加したことがあった。紙芝居をしたり、海岸の廃材で楽器を一緒に作ったりして交流を深めた。「目を輝かせていたあの子たちはどうなったのだろう」。体が自然と動いたという。
夫でデザイナーの境修一郎さん(70)と相談し、絵本を送ることを決めた。避難所で読みやすいようにと、文庫本サイズに作り直した。1000冊を想定したが、印刷代をブログなどで募ると、予想を超えた寄付が集まり、1万冊を制作することができた。
4月に仙台市内の子育て支援施設に送り、その後、各地の避難所などに届けられた。翌年からは毎年、新作を描き下ろした。読む人の共感を呼びやすいようにとテーマには「多くの人が体験していること」を意識した。誕生日や手紙、ピクニックなどを題材とし、みるさんが生み出した黒ネコの「メチャくん」を主人公にした作品を描いた。
絵本は被害が大きかった岩手、宮城、福島県に送られ、地元の信用金庫などを通じ、子育て支援施設を中心に配布されている。15年からは大地震が襲ったネパールにも、ボランティアの力を借りて翻訳した絵本を届けるようになった。
みるさんには絵本を読んだ子どもたちからお礼の手紙が届く。これまで1000通近くが寄せられ、「心が温まりました」「元気が出る」といった言葉に、「読む度に胸がいっぱいになり、東北やネパールの人から逆に励まされる気持ちになる。ありがとうと言いたい」と目をうるませる。
震災から11年になる。寄付金は年々減り、絵本の数も減少傾向にある。それでも、今年度は7000冊を送ることができた。みるさんは「喜んでくれる人がいる限り、活動を続けていきたい」と笑顔を見せる。