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治療法未確立 1年前感染今も休職
新型コロナウイルスの後遺症とされる記憶障害や集中力の低下が深刻化し、就労が困難になるケースが出ている。頭にもやがかかったようになる「ブレーンフォグ」とも呼ばれ、治療法が確立されていないために長期の休業や失業を招き、経済的苦境に立たされることもある。(坂田元司)
「今までできたことが、できなくなった。悔しくて、歯がゆいです」。昨年4月に感染し、今も後遺症に悩む福岡市の会社員女性(40)は、涙を浮かべて訴えた。
コロナは軽症で大型連休前にいったん職場に復帰。しかし、
同6月に職場復帰したが、窓口で顧客から相談を受けると混乱し、上司の指示を忘れることが増えた。人と話すのが怖くなり、社内のストレスチェックは「うつ状態」に。10月に再び休職し、後遺症の治療を行っている福岡市の「みらいクリニック」を受診。ブレーンフォグの症状を認められた。収入は3割ほど減り、今後も休職が長引けば、カット額が大きくなる。女性は「いつになったら、コロナにかかる前と同じ生活ができるのか」と不安げに話す。
国が昨年2月までに患者525人を追跡調査したところ、陽性の診断から半年たった段階で、思考力や集中力の低下を訴える人が11%に上り、味覚(9%)、嗅覚(7%)の異常よりも高かった。東京都世田谷区が同12月にまとめた調査でも、回答のあった6289人のうち14%に「集中力の低下」、6%に「記憶障害」が療養が終わった時点で残っていた。
「みらいクリニック」では、昨年2月以降、約220人を診察。5割でブレーンフォグとみられる症状があった。平均年齢は36歳。「散歩中に迷子になる」など深刻な内容もあった。ブレーンフォグを訴えた人の3割が仕事を休職、退職していたという。
国立精神・神経医療研究センター神経研究所の山村隆特任研究部長によると、ブレーンフォグは一般的な検査による診断がつきにくく、現在でも医師の間で症状や治療法についての十分な知識が広まっていない。「取り残されている患者は少なくない」と山村特任研究部長は話す。
療養後治療費自己負担
後遺症を抱えると、経済的な負担も生じる。コロナは「指定感染症」で感染中の治療は公費で行われるものの、後遺症に関しては他の疾病と同様に自己負担が生じる。正規社員や公務員は健康保険から傷病手当が出るが、パートなど「非正規」の場合は受け取れないケースもある。自営業者らが加入する国民健康保険からは後遺症での傷病手当は支給されない。
後遺症外来を昨年1月に開設した聖マリアンナ医科大病院(川崎市)では、医療ソーシャルワーカーが応じた相談の9割が休職など仕事に関するものだった。同病院の医療ソーシャルワーカーの桑原規夫さん(45)は「弱い立場の人ほど支援からこぼれている。行政の総合的な支援の充実や周知が必要だ」とする。