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約40年前に福岡で誕生した「一灯点滅式信号機」が姿を消しつつある。狭い道路での出合い頭の事故を防ぐと期待されたが、標識の改良などで存在価値が低下。全国の設置台数はこの5年間で約3割減った。一灯点滅式の「黄色点滅は注意して進行、赤色点滅は一時停止」のルールが広く認識されていないため、事故を引き起こす恐れもあり、全国の警察が撤去を進めている。(田中浩司、大久保和哉)
福岡で誕生

一灯点滅式は、狭い道路で出合い頭の事故が多発したことから、福岡県警の求めで開発され、1984年に福岡市南区に初めて登場した。
交差点の中央部に設置され、優先道路側は黄色、交差する道路側は赤色に点滅する。「一般的な信号機には複数の柱が必要だが、コンパクトな一灯点滅式は1本で済み、費用とスペースを節約できる」(福岡県警の担当者)と、全国に広まった。
その後、道路標識や事故対策が時代とともに進化。一時停止標識が夜でも明るく見えるように改良され、交差点内が赤色に舗装されるなど、効果的で低コストな対策が取られ始めると、一灯点滅式のメリットは薄れた。警察庁は2015年12月、都道府県警に「標識で代替可能な信号機の撤去」を検討するように通達を出し、19年にも改めて、一灯点滅式を例に挙げて撤去を指示した。
広がる地域差
警察庁によると、全国の一灯点滅式の設置台数は15年度末時点の46都道府県、5904基から、20年度末で44都道府県の4184基に減った。

20年度末の都道府県別では、福岡が全体の3割超の1307基で最も多く、次いで愛知の706基、宮崎の230基、鹿児島の204基。15年度末の時点で設置がなかった千葉に加えて、富山と三重からも一灯点滅式が消えた。東京(1基)など13都県が1桁台で、地域差が大きくなっている。
点滅信号のルールは「交通の方法に関する教則」に掲載され、自動車教習所でも習う。ただ、警察庁や識者によると、普段の運転で一灯点滅式に出会う頻度が低いため、ルールを忘れたり、誤った解釈をしたりするドライバーも多いという。
検挙数も減
福岡県警によると、点滅信号で一時停止しなかったドライバーの検挙数は、19年6006件、20年5503件、21年4673件だった。点滅信号のほとんどは一灯点滅式で、撤去の動きに合わせるように検挙数も減っている。
また、20年度に撤去した97か所で人身事故件数を見ると、19年度の計25件から21年度は計10件に減った。
福岡市西区の石丸公民館北交差点でも21年3月に撤去された。それに合わせて、一時停止標識を新設し、かすれて見づらくなった一時停止の路面表示や横断歩道も塗り直した。19年度に2件あった人身事故は、撤去後の21年度はゼロになった。
県警は撤去に向けて地元住民に説明を行っており、交通規制課の宮崎賢次郎次席は「標識のほうが事故を抑制する効果が高いことを、データを挙げて丁寧に伝えたい」としている。
九州大の志堂寺和則教授(交通心理学)は、一灯点滅式について「車が急増した時代に『交通の流れを妨げずに注意を促す』という意味で役立った」と評価した上で、「曖昧な解釈を生む一灯点滅式よりも、全員が理解できて誤解がない標識に替えることが事故の可能性を減らす」と指摘した。
地域独自の標識も
道路標識には特定の地域にしか見られなかったり、交通環境やルールの変化で新たに生まれたりするものがある。不慣れな標識には注意が必要だ。
動物のシルエットを描いた「動物警戒標識」には地域性が強く表れる。沖縄県では、ヤンバルクイナやリュウキュウヤマガメ(いずれも国指定天然記念物)、イボイモリ(県指定天然記念物)などの標識が設置され、これらが道路を横断する場合の注意を求める。
国土交通省によると、2000年以降に約30種類の道路標識が追加された。14年には「環状の交差点における右回り通行」の標識を新設。当時、「信号機が不要で、災害で停電しても影響がない」などの利点から環状交差点の設置が増え、改正道路交通法で通行方法も定められたのに伴い、標識がつくられた。