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ロシアによるウクライナ侵攻後、自衛隊施設の配備計画が進む地域に動揺が広がっている。有事の際には真っ先に軍事施設が標的になる現実が突きつけられたからだ。防衛省は強引な海洋進出を強める中国を念頭に、九州・沖縄地方の防衛力整備を最優先で進めているが、住民を避難させる施設や計画の策定は追いついておらず、対策は急務となっている。
逃げ場ない

「ウクライナの惨状を見て不安を感じる。島の活性化につながるので自衛隊が来ることは賛成だが、有事になれば逃げ場はない」。沖縄県北大東村で食料品店を営む女性(55)は13日、表情を曇らせた。
人口約550人の同村は、太平洋の北大東島にある。沖縄本島まで約360キロ離れた絶海の孤島だ。同村議会(定数5)は昨年12月、自衛隊の誘致を求める意見書を全会一致で可決した。
意見書は、自衛隊が拠点を設ければ日本の防衛が強化されると強調。台風などの災害対応や、年間10件ほどの自衛隊機による急病人の搬送がより円滑に進むとの期待がにじむ。
これまで中国軍の航空機や艦艇が活動することが少なかった太平洋側は、「警戒監視・情報収集の空白地域」(岸防衛相)だった。
しかし、中国が太平洋で空母「遼寧」の運用を始めたことで状況は一変。島にレーダーを置けば中国軍の動きを監視できるため、北大東島の戦略的価値は高まった。防衛省は、空自の移動式レーダーの配置に向けて検討を本格化させている。同省によると、遼寧は3日から沖縄近くの太平洋で200回以上の艦載機の発着艦を繰り返している。
宮城光正村長は「配備が決まった場合は、島民の不安や避難場所の確保について国と調整を進める」と強調した。
少ない地下施設
防衛省は南西地域の防衛力強化を急いでおり、2016年に与那国島、19年には宮古島に駐屯地を開設した。22年度末には石垣島にも駐屯地を整備する計画だ。鹿児島県西之表市の
部隊配備が進む一方で、住民を守る対策は不十分と指摘される。
内閣官房によると、国民保護法は他国から武力攻撃を受けた際に住民を避難させ、救援できる施設をあらかじめ指定するよう都道府県に義務づけている。
同法に基づき指定された公立学校校舎などの「緊急一時避難施設」は全国に計5万1994施設(21年4月1日現在)ある。しかし、このうち爆風などから命を守る効果が高い地下施設は約2・5%(1278施設)にとどまる。沖縄県内の地下施設はわずか6か所で、北大東島や与那国島、宮古島には設置されていない。
県の担当者は「有事の避難施設整備への関心は高まっている。住民の安心感を醸成できるように、地下施設やコンクリート造りの建物を中心に避難施設の指定を加速させる」と話した。