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飲酒運転根絶を訴えるフリーペーパー「TOMOs(ともす)」が25日、創刊から5年を迎え特別号を発行した。2011年の飲酒運転事故で高校生の長男を亡くした山本美也子さん(53)(福岡市東区)が代表を務めるNPO法人がつくり、全国の被害者支援センターなどにも配布して遺族らの思いを伝えてきた。山本さんは「5年は通過点。今後も地道に活動を続けたい」と話す。(山本光慶)
「ともす」は2017年5月、飲酒運転根絶のために講演会活動に力を入れていた山本さんが、「講演会に来られない人にも飲酒運転の悲惨さを知ってもらいたい」と発案。名前には「根絶への灯をともし続けよう」などの意味を込めた。
発行は年3回、5万部ずつで、A4判8ページに遺族の思いや企業、学校の飲酒運転根絶に向けた取り組みを掲載。被害者支援センターのほか、福岡県内の警察署や九州の警察本部、企業などに送っている。
「当初は、5年も続くとは思っていなかった」。山本さんはそう振り返る。創刊号の協賛企業は県内を中心とした20社ほど。紙代や印刷代で資金が足りなくなり、ホチキスでとじることができず折っただけで配った。新型コロナウイルス感染が広がったここ数年は、企業の協力が得られないことも。全国の遺族らに取材の協力をお願いする時は、新聞やネットで記事を読み込み、自ら足を運んだ。
発行を重ねるごとに、反響は少しずつ広がり、「社内研修で使っています」という企業や「回覧板で住民に見てもらっている」という町内会などが増えた。飲酒運転で逮捕され、警察署で読んだという人からNPOの事務所に「(飲酒運転は)二度としません」と電話がかかってきたこともあった。
「いろいろな世代や団体から声が届くようになり、思いが伝わっていると感じることができてうれしかった」と山本さんは言う。
今回の特別号は従来より4ページ多い全12ページで構成。「夜回り先生」として知られる元高校教諭・水谷修さんが飲酒運転根絶へ向けた教育の重要性を語った企画や、1999年に東京都で起きた飲酒運転事故で2人の娘を亡くし、その後「危険運転致死傷罪」の新設に尽力した井上保孝さん、郁美さん夫妻の寄稿などが盛り込まれている。協賛企業は創刊時から倍増の40社を超え、配布先も3倍超の約700企業・団体に増えた。
郁美さんは「事故の裁判が終わると活動が下火になる遺族が多い中、山本さんは多くの人と協力して活動を続けている。『ともす』は、誰もが飲酒運転のない社会づくりに参画できるのだと伝えてくれてもいる。これからもできる限り協力したい」と話す。
コロナ禍で、例年150回ほどに達していた講演会や、NPOが行っていた街頭での啓発活動は激減し、無料誌の役割はますます大きくなっていると山本さんは感じている。今後は、加害者側に事故の経緯や心境などを聞き、掲載できればと思っている。
山本さんは「飲酒運転事故の被害者も加害者も生まない社会を目指している。駅や居酒屋、カフェなど町のいろいろな場所に『ともす』を置いてもらい、身近に感じてもらえるよう活動を続けたい」と話した。