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宗教や年齢、性別に関係なく、「死」について、思いや考えを語り合う「 デスカフェ 」の取り組みが広がっている。日常では敬遠されがちな話題だが、コロナ禍で「別れ」の形が変化し、死との向き合い方を意識する機会が増えたことが背景にあるとみられる。福岡県久留米市で新たなグループが活動を始めており、専門家は「生き方を考えることにつながる」と説明する。(谷口京子)
性別世代も多様
久留米市のカフェの2階で40歳代の男女4人が先月下旬、テーブルを囲んだ。穏やかな音楽が流れる中、互いに本名は言わず、ニックネームで自己紹介した。
この日のテーマは「最近、死について感じたこと、思ったこと」。一人の女性(47)が、自分より若い知人が病気で突然亡くなったと切り出し、「残された大学生の娘さんに何かしてあげられないか、考える日々です」と打ち明けた。3人は何度もうなずき、女性の言葉に静かに耳を傾けた。語らいは1時間ほど続いた。
主催したのは、同市で住職を務める溝辺伸さん(44)と、九州産業大非常勤講師の木村真也さん(47)が設立したグループ「デスカフェ久留米」。溝辺さんはコロナ禍の2020年12月、入院した父を一度しか面会できぬまま亡くし、死のプロセスを感じられないつらさを痛感したという。
核家族化で墓参りや法事が減り、若者が死と直面する機会を失いつつある現状を目の当たりにしていたこともあり、デスカフェの発足を決断した。地域でイベントを手がけていた知人の木村さんとともに、今年3月に活動をスタート。月2回の開催で、語り合いには、2人とも加わる。
参加者は性別世代とも多様だ。福岡県大川市の70歳代の女性は4月の会で、「コロナ禍で死を身近に感じるようになった。素顔の自分で思いを語れた」とすっきりとした様子で語った。溝辺さんは「人は死を意識することで他人に優しくしたり、平和を考えたりできるのではないか。対話を通して死を考えるきっかけにしてほしい」と話す。
孤立防ぐ
デスカフェは各地で行われているが、形態や目的も様々だ。15年から活動する「デスカフェ仙台」は、遺族の孤立を防ぐことも目的としている。主宰者が対話の間に音楽を演奏したり、詩を朗読したりするなど和やかな雰囲気を創出するのは、そのためだという。
コロナ禍のため、オンラインの取り組みが続く。主宰する翻訳業の庄子昌利さん(54)は、妻を亡くしたつらい経験があり、「親しい人の死で心を閉ざす人もいる。つながりを持てる場があることが重要だ」と話す。
今年1月にカフェを開いた一般社団法人「まるっと終活大分支援協会」(大分市)は、終末期の希望や願いを記したカードを選ぶ「もしバナゲーム」を取り入れている。余命わずかという想定で、「望む形で治療やケアをしてもらえる」「ユーモアを持ち続ける」などと書かれた中から考えに近いカードを選び、理由を語り合う。自身の価値観に気づき、互いの理解を深める時間につながるという。
20年には延べ約400人が参加し、デスカフェの主催者らが取り組みを紹介するサミットがオンラインで開かれた。京都女子大の吉川直人助教(社会福祉学)は「高齢化による多死社会を迎え、みとりや葬儀の変化、心構えなど、死について語り合う場の需要がさらに増すことが想定される。対話を重ね、癒やしやつながりをつくっていくことが重要」と指摘している。