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神々や河童がそこに…遠野に残る「物語」の空気感

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盛岡支局長 林 英彰

 岩手県南東部にある遠野市といえば、民俗学者の柳田国男が明治時代に編さんした「遠野物語」を思い浮かべる人は多いと思う。えぐい言い方をすれば、怪奇現象の説話集が生まれた土地なのだが、そうした世界をいまも堪能できるようだ。面白くないわけがない。

「日本の原風景」を地で行く

山口集落にある石碑群。遠野物語の登場人物と思われる名前も確認できる
山口集落にある石碑群。遠野物語の登場人物と思われる名前も確認できる

 遠野盆地を訪れたのは、盛岡支局に赴任して3か月余が過ぎた2020年12月。まず、市東部の山口集落に向かった。地元に伝わる話を柳田に語った佐々木喜善の出生地で、幽霊や座敷わらし、うば捨ての地など、物語ゆかりの場所が多い里山だ。

 案内板を読みながら辺りを散策してみる。田畑の周辺には水車小屋や古い石碑がある。道端には、水で野菜を洗うおばあちゃんの姿が。何年も前から時間が止まっているようだ。「日本の原風景」というキャッチフレーズはだてじゃない。

1000体のオシラサマ

伝承園にある国の重要文化財の曲り家「旧菊池家住宅」
伝承園にある国の重要文化財の曲り家「旧菊池家住宅」

 物語の旅を続けよう。養蚕や農業などの神様「オシラサマ」に会うため、JR遠野駅から車で約10分の「伝承園」へ。遠野のかつての暮らしを紹介する施設で、中でも、馬屋と住居部分をL字につなげた国の重要文化財の曲り家が立派だ。

 娘が馬と夫婦になり、怒った父親が馬を桑の木につり下げて殺してしまう。娘は悲しむが、父はさらに馬の首を切り落とす。娘は馬の首に乗り、天に昇ってしまった…。

約1000体のオシラサマが展示されている御蚕神堂の内部
約1000体のオシラサマが展示されている御蚕神堂の内部

木の棒に馬や人の顔を刻み、布を着せたオシラサマは素朴で趣がある
木の棒に馬や人の顔を刻み、布を着せたオシラサマは素朴で趣がある

 遠野物語によると、この時にオシラサマが誕生した。

 曲り家とつながっている御蚕神(おしら)堂に入る。木の棒に馬や人の顔を刻み、布を着せて作られた約1000体のオシラサマに迎えられる。娘と馬の婚姻(たん)はどきっとするが、農耕や移動に重宝した馬を大切にしたことから生まれた悲哀と信仰の話だろう。赤が基調の堂内で素朴な顔立ちの神様を見ていると、ちょっと悲しくなる。

河童抜きには語れない

 気分を変えよう。次は河童(かっぱ)だ。遠野物語には、たくさんの異界関係者が登場するが、最も知名度が高く、現世では稼ぎ頭でもある。土産物店は河童なしでは成り立たない。

 遠野文化研究センターの資料によると、市内には河童出没の伝承が残る淵が14か所確認されている。馬を淵に引っ張り込もうとして、逆に馬屋まで引っ張られてしまうというドジな話が多い。憎めないやつだ。資料には、1974年と比較的最近(?)の目撃談も記録されている。

キュウリを餌にして、河童の生け捕りに挑戦できる
キュウリを餌にして、河童の生け捕りに挑戦できる

 伝承園近くにも河童淵がある。地元観光協会発行の捕獲許可証を購入し、好物とされるキュウリで生け捕りに挑戦する。水面にひょっこりと顔を出す姿を想像してみる。

 今回、いろいろなことを教えてくれた同センターの熊谷航さんは、「何かを見るためでなく、感じたいから遠野に来る人が多いようです」と話す。納得だ。見えない何かを感じるきっかけになりそうな風景が、ここには数多く残っている。

 さて、次は神霊の座敷わらしを探しに行こう。と思って調べると、別におすすめの場所もあるようだ。遠野からはちょっと遠い。次回までお待ちを。

遠野物語とは
 民俗学者の柳田国男(1875~1962年)が、遠野出身で民話を収集していた佐々木喜善(1886~1933年)から聞き書きした説話119編をまとめ、1910年に刊行した説話集。当初は350部のみの自費出版だった。神々の言い伝えや天狗(てんぐ)や河童、山男や山女などが登場する怪異現象などで構成される。遠野は海岸部と内陸をつなぐ交通の要衝で、不思議な話、珍しい話などが外部からもたらされ、地元の伝承とともに語り継がれてきた。

プロフィル
林 英彰(はやし・ひであき)
 1965年6月11日、千葉県生まれ。20代前半は米国に遊・留学して過ごす。92年、26歳で読売新聞東京本社に入社し、水戸支局に。国際部、ニューデリー・甲府・ジャカルタ・富山・成田の各支局、北陸支社事業担当、英字新聞部などを経て、2020年9月から盛岡支局長。珍味、郷土食に関心高し。音楽は民謡からメタルまで薄く広く愛聴。旅好き。行けない時は冒険本、ロードムービーで我慢。広大な岩手県をはじめ、東北各地を隅々まで巡ってみたい。

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1802156 0 We Love みちのく 2021/01/28 12:00:00 2021/01/28 12:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/01/20210125-OYT8I50053-T.jpg?type=thumbnail

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