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感染拡大で注目、語り部ナビが被災地の「今」をガイド

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東北総局長 池辺 英俊

新たな被災地案内ツールに「試乗」

 「交通安全に気をつけながら、震災について学んでいきましょう」

 車を出発させるとすぐ、タブレットのカーナビから音声が流れる。一般のカーナビと同じく女性の機械音声だが、案内してくれるのは道順だけではない。

 出発地である宮城県石巻市の歴史、人口、名産などを紹介しつつ、10年前の東日本大震災発生時の被災状況にも説明が及ぶ。

被災地の道案内と同時に、ガイドもしてくれるナビ。タブレットで通常のカーナビとは別に設置されていた
被災地の道案内と同時に、ガイドもしてくれるナビ。タブレットで通常のカーナビとは別に設置されていた

 「残念ながら、東日本大震災で最大の被災地は石巻市です」

 「石巻市では約4000人も亡くなりました。40人に1人の市民が亡くなった計算になります」

 被災地の道案内とガイドの二役をこなす「語り部ナビ」。新型コロナウイルスの感染拡大で対面による語り部活動が難しくなる中、新しい被災地案内ツールとして注目されていると聞き、1月中旬、「試乗」してみた。

児童、教職員計84人が犠牲になった悲劇の現場、大川小学校
児童、教職員計84人が犠牲になった悲劇の現場、大川小学校

 日産の軽自動車をレンタルし、最初の目的地、旧大川小学校へ向かう。北上川沿いを走ると、児童・教職員計84人が犠牲になった悲劇についての説明が流れてきた。

 「学校に最大8・6メートルの津波が来るまで51分の時間がありましたが、(児童らが)避難を開始したのは津波が来る1分前でした」

 到着するまでに被災の概要をインプットした上で校舎を見学。大川小は震災遺構として今春にも公開される予定だ。管理棟の整備が進み、工事車両が盛んに行き交うが、この時の見学者は筆者一人だった。

いのちの石碑、トモダチ作戦…運転しながら「へぇ」「ほぉ」

 これが初訪問ではない。昨年6月、遺族の語り部の話を同僚の記者たちと一緒に大川小で聞いた。語り部の方は「なぜ、すぐ近くの裏山に逃げてくれなかったのか」と何度も訴えていた。その時伝わってきた無念の思いが、無残に崩壊した校舎を再び目にした瞬間、あらためてこみ上げてきた。

 「私たちの日常は一瞬にして奪われてしまいます」

 大川小を立ち去る際のナビの言葉が胸に刺さる。

 道中、ふつうのドライブなら音楽でも流すところだが、ナビは沿道の震災情報を次々と教えてくれるので、それに耳を集中する。石巻市の二子団地をはじめとする災害復興住宅、津波到達点付近を示して震災の教訓を伝承する「女川いのちの石碑」、米軍の「トモダチ作戦」が展開された学校などなど。運転しながら「へぇ」「ほぉ」を連発する。おっと、よそ見に注意。

雄勝湾のだれもいない砂浜。プライベートビーチにいるような、ぜいたくな気分になれる
雄勝湾のだれもいない砂浜。プライベートビーチにいるような、ぜいたくな気分になれる

 入院患者40人を含む64人が死亡・行方不明になった雄勝病院跡地を見た後、雄勝湾沿いを走る。車窓からの海の景色に癒やされる。「春は沿道の桜も見事です。また来てください」とナビは意外と商売熱心。この辺は車も人も少ない。特に津波で石巻からハワイに漂流した「第2勝丸」を保管する波板では、だれもいない砂浜に一人きり。プライベートビーチにいるような気分になった。

三陸名物はやはり海鮮。大きな刺し身が所狭しとひしめく女川丼。絶品!
三陸名物はやはり海鮮。大きな刺し身が所狭しとひしめく女川丼。絶品!

 ランチはやはり三陸名物の海鮮。津波被害から復興した女川のシンボルともいえる商業施設「シーパルピア女川」で、大きな刺し身がひしめく「女川丼」と焼き牡蠣(がき)に舌鼓を打つ。

宮城にきたら欠かせないグルメ、牡蠣。肉厚で大きい
宮城にきたら欠かせないグルメ、牡蠣。肉厚で大きい

 午後は石巻の南浜、日和山公園などを巡って終了。午前10時ごろ出発し、午後4時近くの到着となった。

半日コース、2時間コースも…「あの時のボランティアの方々に」

 ナビは導入されたばかりだけに、気になる点がいくつかあった。説明をリピートできない、コースから外れた途端に「沈黙」する、ゆっくり走らないと説明が途中で切れる、など。しかし、震災や被災地について多くを学ぶことができ、とても参考になった。

 筆者が体験した1日コースのほか、半日コース、2時間コースがある。ナビを導入した石巻市の一般社団法人「日本カーシェアリング協会」の事業部長、石渡賢大さん(30)は、「団体ではなく、家族や仲間の少人数で回って学べるのがメリット。震災後に全国から集まってくれたボランティアの方々に、10年たった被災地の今を『語り部ナビ』を通して見てもらいたい」と語る。

 筆者も震災発生から2か月後、石巻でドブ掃除に従事した。無数の車やがれきがあちこちひっくり返っている光景を見て、「復興に一体、何年かかるのか」とぼう然としたことを思い出した。

 被災地は深い悲しみを抱えながらも、たくましく復興してきた。震災10年という節目に、一人でも多くの方に被災地の「今」を見に訪れていただきたい。

 「語り部ナビ」の問い合わせは、同協会0225(22)1453。

プロフィル
池辺 英俊(いけべ・ひでとし)
 1966年4月、東京・渋谷生まれ。福岡で青春時代を過ごす。90年、読売新聞東京本社入社、甲府支局で記者生活スタート。その後、政治部に約20年間在籍。首相や外相、自民党幹事長同行の外遊は30回を超える。急性骨髄性白血病の闘病・移植治療を経て、2020年2月に東北総局長として初のみちのく赴任。奥深い自然や文化、人々のあたたかさに感銘を受け、週末ごとに東北各地を巡っている。趣味は、山登り(特に富士山は9回登頂し、著作もあり)、ゴルフ、読書(主に歴史小説。最近、宮城を舞台にした山本周五郎「樅ノ木は残った」を読破)。

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1816665 0 We Love みちのく 2021/02/04 12:00:00 2021/02/04 12:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/01/20210127-OYT8I50043-T.jpg?type=thumbnail

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