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仙台湾沿岸部、被災地の「今」をこの目で

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東北総局長 池辺 英俊

伊達政宗以前からあった?荒浜地区

 宮城県仙台市の中心から車で海に向かって走ると、仙台東部道路辺りで別世界に入ったかのように景色が一変する。

 家や建物は極端に少なくなり、荒れ地や農地が地平線まで広がる。市街地から、津波がすべてを押し流した「被災地」に入ったことを実感する。

 東日本大震災から10年。人が住むことを禁じた「災害危険区域」に指定された仙台湾沿岸部では、商業施設や果樹園、震災遺構などの施設が少しずつ増え、にぎわいを取り戻しつつある。こうした被災地の今を見学するバスツアー(モニターツアー)に3月中旬、参加した。

津波で押し流された荒浜地区の住宅の基礎部分が、震災遺構として保存・公開されている。奥に見えるのは荒浜小学校
津波で押し流された荒浜地区の住宅の基礎部分が、震災遺構として保存・公開されている。奥に見えるのは荒浜小学校

 ツアー集合場所は仙台駅。ここから約10キロ東の沿岸部に震災遺構の仙台市立荒浜小学校がある。震災時、2階まで津波が押し寄せたが、避難してきた児童、住民ら320人の命を守った。だが、周辺の荒浜地区は壊滅的な被害を受け、慰霊碑には192人の名が刻まれている。巨大津波が田畑や集落をのみ込む衝撃的な映像を記憶している方も多いだろう。

震災前の荒浜地区の模型を前に当時を語る鈴木憲一さん
震災前の荒浜地区の模型を前に当時を語る鈴木憲一さん

 「荒浜は農業と漁業で栄えた地区で、震災前、約800世帯が暮らしていました。伊達政宗が仙台に拠点を構える前、およそ500年前から人が住んでいたといわれています。小学校の運動会では、五つの町内会がお寺で必勝祈願をしてから集結し、地区全体で盛り上がりました。そんな習慣が残る地区は仙台でほかにありません」

 スタッフの鈴木憲一さん(70)の話から在りし日の荒浜が思い浮かぶ。鈴木さんは仙台市職員として震災直後、荒浜から避難した人々などの支援に従事。その流れで荒浜小のガイドを4年務めた。3月末で退職したが、「国内外の多くの方が真剣に話に耳を傾け、謝意も伝えてくれた。最後にやりがいのある仕事ができて本当にありがたい」と笑顔で語る。

司馬遼太郎を魅了した「貞山堀」で減災

 鈴木さんの話で「ほぉ」と注目したのは、荒浜小と海の間を流れる貞山堀(ていざんぼり)が津波の勢いを減じさせたという箇所だ。

 貞山は、伊達政宗の追号。貞山堀はその名の通り、正宗の命で着工された運河で、司馬遼太郎が「街道をゆく」で初めて見た時の感動をこう記している。

 「私はひと目、貞山堀をみたいとおもっていたが、おそらく開発などのために消滅しているのではないかとも思っていた。ともかくもこれほどの美しさでいまなお保たれていることに、この県への畏敬を持った。(略)保存につとめていることは、水や土手のうつくしさでよくわかる」

 その貞山堀が震災時、津波を止めるには至らなかったものの、減災に貢献したというなら、それだけでも私たちは政宗に謝意を抱くべきかもしれない。貞山堀は今、司馬が称賛した美しい流れと景観を保持している。

集団移転跡地に体験型観光農園

トマト、カブ、カボチャなど色とりどりの野菜に囲まれたスパイスカレー
トマト、カブ、カボチャなど色とりどりの野菜に囲まれたスパイスカレー

 荒浜小からすぐ近くの「JRフルーツパーク仙台あらはま」に移動してランチ。農園採れたての食材を生かしたカレー。ライスの周りをトマト、ブロッコリー、カボチャなどが彩る。いと、うまし。

「地元野菜と食材をたっぷり用意したカフェやマルシェもあるので、気楽に来てください」と語る設楽真美さん
「地元野菜と食材をたっぷり用意したカフェやマルシェもあるので、気楽に来てください」と語る設楽真美さん

 防災集団移転跡地に3月18日にオープンしたばかりの体験型観光農園。約8ヘクタールの農園でイチゴやリンゴ、ブルーベリーなど8品目、156種類を栽培。通年で摘み取りを体験できる東北で唯一の施設だという。

 そもそもなぜ、荒浜でフルーツなのか。

 「山形のサクランボ、福島の桃など、周辺の県は果実の名産地なのに宮城は果物の栽培や生産が少ない。ここができたことで地元の果物や野菜の生産、消費をアップさせ、復興にも貢献したいと考えています」と語るのは、農園を運営する仙台ターミナルビル観光農業部の設楽真美さん。

 カフェのほか、地元産のレタス、小松菜などの野菜を販売するマルシェもある。イチゴ狩り体験では、「指ではさんでひねるときれいに取れます」とアドバイスを受けたが、不器用な筆者はうまく取れない。だが、自分で摘んだイチゴはうまさも倍増するから不思議だ。

無一文・宿なしから酒蔵再建

 ツアー最後の目的地は仙台市の隣、名取市の閖上(ゆりあげ)。震災では700人以上の犠牲者が出た地域だ。

 1871年創業の酒造会社「佐々木酒造店」を訪ね、佐々木洋専務(44)の話を聞く。淡々とした口調。だが、その内容は被災から再建までの「あきらめない」執念が伝わってくるストーリーだった。

無一文・宿なしから酒造店を再建した佐々木洋さん。閖上の日本酒、仙台市秋保のワイン、同市作並のウイスキーを結んだ「酒ツーリズム」を構想している
無一文・宿なしから酒造店を再建した佐々木洋さん。閖上の日本酒、仙台市秋保のワイン、同市作並のウイスキーを結んだ「酒ツーリズム」を構想している

 本社と酒蔵が津波で流され、たった一晩で無一文、宿なしに。無事だったタンクにわずかに残った酒を瓶詰めして販売。仮設蔵は、緻密(ちみつ)な温度調整が求められる酒造りには不向きと言われたが、手作業で一滴ずつ集めた純米大吟醸「宝船浪(ほうせんなみ)の音」は、東北清酒鑑評会で優等賞を受賞。19年10月、創業の地、閖上に戻って再建を果たす――。

 佐々木専務は閖上名産の赤貝、セリ、シラスとの相性の良さを「寄り添う」と表現し、「地元の味に寄り添うお酒を、明日を生きようと思ってもらえる力水として提供していきたい」と語る。被災から再建に至る途中で、阪神大震災で被災した杜氏(とうじ)の方々をはじめ、全国の酒造関係者から受けた支援と恩は片時も忘れたことはないという。

 歴史を知って飲む酒は、一段と深い味わいだった。観光やツアーも同様の側面があるように思える。

 佐々木酒造店の目の前には、19年4月、名取川沿いにオープンした商業施設「かわまちてらす閖上」がある。広々と気持ちよいリバーサイドで、食事や買い物を楽しむ家族連れやカップル、子どもたちのはしゃぐ声。幸せを絵に描いたような光景は、震災の甚大な被害と、復興に向けた被災者らの血のにじむような努力の延長線上にある。沿岸部めぐりやツアーでは、こうしたことにも思いをはせたい。

日帰りツアー、5月にも本格開始へ

 追記 筆者が参加したツアーは読売旅行主催。同社仙台営業所(022・222・5811)は感染状況を見た上で5月にも仙台湾沿岸部の日帰りツアーを本格スタートする方向。被災地を巡るツアーは日本旅行なども企画している。記事はツアーだけでなく、その後の取材も加味した。

▽震災遺構 仙台市立荒浜小学校 022・355・8517※月曜日及び第4木曜日休館。2021年4月1日現在、新型コロナ感染拡大に伴い、休館中。

▽JRフルーツパーク仙台あらはま 022・390・0770※火曜日休園

▽佐々木酒造店 022・398・8596 水曜日定休

プロフィル
池辺 英俊(いけべ・ひでとし)
1966年4月、東京・渋谷生まれ。福岡で青春時代を過ごす。90年、読売新聞東京本社入社、甲府支局で記者生活スタート。その後、政治部に約20年間在籍。首相や外相、自民党幹事長同行の外遊は30回を超える。急性骨髄性白血病の闘病・移植治療を経て、2020年2月に東北総局長として初のみちのく赴任。奥深い自然や文化、人々のあたたかさに感銘を受け、週末ごとに東北各地を巡っている。

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1951171 0 We Love みちのく 2021/04/01 12:00:00 2021/04/01 12:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/03/20210330-OYT8I50073-T.jpg?type=thumbnail

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