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紅花に魅せられて…映画「おもひでぽろぽろ」の舞台から

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山形支局長 赤津良太

花摘みから紅餅作りまで、丁寧に描写

 夜がまだ明けきらない山あいに広がる黄色の花畑。都会のOLとして生活を楽しみながらも生き方に迷う27歳の女性が主人公。人生を見つめ直そうと旅だった先は義兄のふるさとである山形。真っ先に向かうのが紅花畑だ。

映画「おもひでぽろぽろ」の一場面(提供:スタジオジブリ)。山形市高瀬地区をモデルに描かれたとされる
映画「おもひでぽろぽろ」の一場面(提供:スタジオジブリ)。山形市高瀬地区をモデルに描かれたとされる

 映画「おもひでぽろぽろ」では、花摘みから染料のもとになる紅餅作りまで、紅花栽培の工程が実に丁寧に描かれている。時間にして10分にも満たない場面だが、この映画の「陰の主役」と思わせるほど、見る人に強い印象を残すのが紅花ではないだろうか。

 映画の公開は1991年夏。私は数年後、社会人になってからDVDで鑑賞した。都会に生きづらさを感じる若者が、農村の豊かな自然や人情に癒やされながら、新たな居場所を見つけようとする「自分探し」の旅。入社まもない時期の私も仕事を続けていくことに自信を失いかけていた。ジブリ映画と言えば「おもひでぽろぽろ」が最初に頭に浮かぶのは、紅花の美しい映像に加え、主人公の心情と重なる部分があったからだと思う。

トゲに守られるように咲く紅花(提供:高瀬コミュニティセンター)
トゲに守られるように咲く紅花(提供:高瀬コミュニティセンター)

 山形を舞台に描いているが、当時、登場する風景は架空のものだと思っていた。今は失われてしまった、美しい思い出の世界なのだろうと。しかし、モデルになった場所があった。山形市高瀬地区だ。山形駅から電車と徒歩で30分ほど、車だと15分余りの近さだ。現在も17、8軒の農家が約2ヘクタールを使って紅花を栽培している。見頃となる7月には例年、花摘みや紅花染め体験、切り花の販売、郷土芸能の披露など、地区を挙げての紅花まつりが開かれ、多くの観光客でにぎわう。

 私も最初の山形勤務だった7年前、映画のモデルの場所で紅花まつりが開かれると知り、家族と共に高瀬に向かった。メイン会場には、30アールの土地に約3万本の紅花が植えられている。切り花用に何本かを茎から切り取ったが、花の根元や葉にトゲがあり、油断すると軍手をしていても指に突き刺さる。本当に痛い。紅花の花摘みがいかにつらい作業なのかを体感するまたとない機会となった。少し山を上がった所に10アールほどの別会場もあり、平地とは違う景観を楽しめた。

戦後に農家で種見つけ、生産復興へ

 主に染色や口紅に使われてきた紅花。実際の花びらは黄色やだいだい色。紅(赤)はどこから取れるのだろうと今更ながら疑問に思った。2018年に文化庁の日本遺産(「山寺が支えた紅花文化」)に高瀬地区などが認定された後、県が作成した冊子「やまがたの紅花」によると、花びらに含まれる色素のほとんどは黄色で、赤色の色素は0・5%しかないという。発色を良くし、輸送、保存に優れた「紅餅」に加工しても、赤色の色素は1%に過ぎない。

紅花の花びらを加工した「紅餅」(提供:白鷹町「日本の紅(あか)をつくる町」連携推進本部)。発酵させることで深みのある赤色へ変化する
紅花の花びらを加工した「紅餅」(提供:白鷹町「日本の紅(あか)をつくる町」連携推進本部)。発酵させることで深みのある赤色へ変化する

 紅花染めで表現される色の多彩さには驚かされる。その謎を解く一つのかぎが、日本の代表的な染料の一つの藍だ。紅花と青色の成分を持つ藍を組み合わせると、赤、黄、青の三原色がそろうため、ほとんどの色を表現できることになる。染色の世界で紅花が果たした役割の大きさも分かってくる。江戸時代、京都や大阪で取引される紅餅の価格は、「米の百倍、金の十倍」と言われるほど高価だったという。取引で財をなした紅花商人の屋敷は、資料館や土産物店などに姿を変えて今も山形県内に残っている。

紅餅から抽出された色素で染められた糸(提供:株式会社新田)。米沢織などに使われる
紅餅から抽出された色素で染められた糸(提供:株式会社新田)。米沢織などに使われる

 江戸中・後期に盛んだった山形の紅花栽培は、明治時代になると輸入されてきた化学染料に押され、食料増産の流れにも抗しきれず衰退の一途をたどった。しかし戦後、農家に保管されていた紅花の種が見つかり、歴史・文化の継承を目的に生産復興の機運が高まった。1982年に「県の花」に選ばれ、92年には「べにばな国体」が開催されるなど、山形のシンボルとして定着していった。

7月に県内各地で紅花まつり…緑と美しいコントラスト

 高瀬地区で行われる「山形紅花まつり」は、高瀬紅花ふれあいセンター(高瀬コミュニティセンター)周辺で、今年も7月10日(土)、11日(日)に予定されている。山形県内では天童市、白鷹町、河北町、中山町でも、例年7月上中旬に紅花まつりが開かれている。咲き誇る紅花が見られるのはこの時期だけ。明るい花色なので雨が降っても周囲の緑とのコントラストが美しい。一度は目にしてほしい光景だ。

山形紅花まつりの会場(提供:高瀬コミュニティセンター)
山形紅花まつりの会場(提供:高瀬コミュニティセンター)

 いずれのイベントもコロナ禍で開催が中止・変更される可能性があり、訪ねる前に各市町のホームページなどで確認してほしい。 

 翻って、映画「おもひでぽろぽろ」の最後のシーン。主人公は都会へ戻らず、親しくなった農業を営む青年の元へ駆けていく。2人が結ばれたかどうかは分からない。映画の舞台設定は1982年。どのような結末を想像するかは見た人次第だが、もし主人公が紅花を栽培していたら60歳代後半にさしかかる。紅花栽培の苦労話も聞いてみたいが、あまり想像を膨らませると笑われてしまう。次の取材のテーマとしたい。

プロフィル
赤津 良太(あかつ・りょうた)
1969年11月、東京都生まれ。93年、読売新聞東京本社に入社し、新潟支局に赴任。2年余りを佐渡島(旧両津通信部)で過ごす。政治部のほか、長野、千葉両支局で県政を担当。新潟、山形両支局のデスクを経て、医療部に6年余り籍を置いた。2021年1月から山形支局長。趣味はクラシック音楽の鑑賞と美術館巡り。4月から念願の山形交響楽団の定期会員に。大好きな国宝「洛中洛外図屏風」(米沢市上杉博物館所蔵)も鑑賞。お気に入りの地酒探しにも余念がない。

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2046590 0 We Love みちのく 2021/05/13 12:00:00 2021/05/13 21:34:22 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/05/20210511-OYT8I50049-T.jpg?type=thumbnail

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