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クジラに懸ける復興…宮城・鮎川で食して学ぶ

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東北総局長 池辺英俊

胃袋に訴えた伝統食文化

 クジラ肉入りのカレー、クジラの竜田揚げ……。

 政治記者だった2014年9月の昼、自民党本部の食堂に行くと、それまでなかったクジラ料理の新メニューがいきなり登場していて驚いたことがある。

全長16・9メートルと、大きなマッコウクジラの全身骨格。迫力満点でクジラの大きさも実感できる(おしかホエールランドで)
全長16・9メートルと、大きなマッコウクジラの全身骨格。迫力満点でクジラの大きさも実感できる(おしかホエールランドで)

 「二階総務会長(当時・現在は幹事長)のご指示ですよ」と党職員から聞き、得心した。二階氏の地元、和歌山県太地町(たいじちょう)は、有名な捕鯨の拠点。当時、日本の調査捕鯨に対し、豪州など反捕鯨国の批判が強まっていた。これに臆することなく、逆に、クジラという日本の伝統食文化の大切さを国会議員らの「胃袋」に直接訴えた形だ。二階氏はこの頃、クジラ肉の試食イベントも党本部で大々的に開催していた。

 剛腕で知られる二階氏らしい手法だなと思いつつ、食堂で竜田揚げを口に入れると、幼い頃、食卓や給食で食べた懐かしい味が広がった。

黒い屋根がクジラを連想させる「ホエールタウンおしか」の全景。テラスから海を眺めるのもいい
黒い屋根がクジラを連想させる「ホエールタウンおしか」の全景。テラスから海を眺めるのもいい

 このことを思い出したのは、クジラを前面に東日本大震災からの復興をめざす被災地があると耳にしたからだ。「クジラを食べたい」という食欲にも背中を押され、牡鹿(おしか)半島の先端近く、宮城県石巻市鮎川地区を4月と6月の2度、訪ねた。仙台から車で2時間ほどだった。

 鮎川浜に近づくと、かさ上げ地にカーブを描く黒い大きな屋根が視界に入ってくる。クジラを特に意識したものではないそうだが、巨大なクジラの背中のように見える。ここが商業・観光の拠点「ホエールタウンおしか」だ。中には飲食店・売店、牡鹿半島の自然を紹介するビジターセンター、クジラ博物館のおしかホエールランドの三つのゾーンがある。主に復興予算で建てられ、19年から順次オープンしている。

刺し身は魚より弾力あり、厚くても軟らかみ

 運営する「鮎川まちづくり協会」代表理事の斎藤富嗣さん(61)が語る。

鮎川まちづくり協会代表理事の斎藤富嗣さんは、「若い人たちには特にクジラのおいしさを体験してほしい」と語る。後方の船は捕鯨船「第16利丸」
鮎川まちづくり協会代表理事の斎藤富嗣さんは、「若い人たちには特にクジラのおいしさを体験してほしい」と語る。後方の船は捕鯨船「第16利丸」

 「捕鯨が最も盛んだった昭和30年代、鮎川には約10社の捕鯨会社が集まり、鮎川を含む旧牡鹿町には1万5000人超の住民がいました。バーや映画館、飲み屋などで大いににぎわっていましたが、捕鯨の衰退とともに人が去り、震災の壊滅的被害を経て、今は2300人ほど。でも、立派な施設ができたので、新鮮なクジラ肉を味わえることをアピールし、再びクジラを前面に地域を活性化させたい」

 親潮と黒潮がぶつかり、好漁場の金華山沖に近い鮎川港は、捕鯨基地として発展。鯨食文化が根付き、各家庭では今もクジラ肉がよく食べられているといい、「だから、この辺のお年寄りはみんな元気なんですよ」と斎藤さんは笑う。

 施設内を巡る。圧巻なのが、ホエールランド入り口近くの全長16・9メートルのマッコウクジラの全身骨格だ。牙のように鋭い歯が並ぶ、大きな口をばっくり開けた姿は、今にも襲い掛かってきそうな迫力だ。

 海側には、津波に耐え、復興のシンボルとして地域住民の心の支えとなった大型捕鯨船の「第16利丸」が展示されている。夏には船内の見学がスタートする予定という。

 クジラや自然について学んだ後は、いよいよ「食タイム」だ。

クジラ刺し身定食。さまざまな部位の多彩な味、食感が楽しめる
クジラ刺し身定食。さまざまな部位の多彩な味、食感が楽しめる

 施設内の料理店は数軒あり、どこも新鮮なクジラや魚介類などを提供している。1回目の訪問では「プラザ サイトー」の刺し身定食をいただいた。魚の刺し身より弾力、かみ応えがある。でも、さっぱりして厚みがあるけど意外と軟らかい。色鮮やかな赤身肉のほか、白い脂身、さえずり(舌)など様々な部位、変化に富む味や食感を楽しめるのもうれしい。臭みも感じなかった。

 2回目の訪問では、「黄金(こがね)寿司(ずし)」の握りを堪能。脂ののった肉の食感だけでなく、紅白の握りは彩りもきれいだ。石巻では正月や結婚式などのハレの日にこの紅白のクジラの刺し身を一緒に口に入れるという。クジラのユッケ丼も人気メニューだそうだ。

クジラの握り寿司。赤身肉に白い脂身のハーモニー。クジラならではの弾力とかみ応えがうれしい
クジラの握り寿司。赤身肉に白い脂身のハーモニー。クジラならではの弾力とかみ応えがうれしい

商業捕鯨化で鮮度・味がグンとアップ

 ご主人の古内勝治さん(77)、息子の勝徳さん(47)から興味深い話を聞いた。

 日本が国際捕鯨委員会(IWC)から脱退し、調査捕鯨から商業捕鯨に転じた(これも二階氏の働きかけが影響した)のが2年前。これを機に、クジラ肉の鮮度や味がグンとアップしたというのだ。調査捕鯨は文字通り、クジラが何を食しているかも調べるため、内臓や血もそのまま持って帰るが、商業捕鯨ではそれらを捕獲時に取り除くため、「クジラ肉の新鮮さやおいしさがよりしっかり保てるようになった。臭みも減った」という。

 ただ、肉の味は良くなっても、捕鯨をめぐる環境は厳しさが続く。

捕鯨で栄えていた頃の鮎川の風景(1972年)。駐車場はたくさんの車やバスで埋まっている(写真・鹿井清介、鮎川まちづくり協会提供)
捕鯨で栄えていた頃の鮎川の風景(1972年)。駐車場はたくさんの車やバスで埋まっている(写真・鹿井清介、鮎川まちづくり協会提供)

 震災前の調査捕鯨では鮎川港に毎年60頭ほどのミンククジラが水揚げされていたが、今年や昨年は1桁にとどまっている。震災後の「海の変化」や地球温暖化の影響などが指摘されている。もっとも、他県で水揚げされた新鮮な肉が入ってくるほか、鮎川港周辺でも定置網などにクジラがかかることも多いという。

 さらに、国内のクジラ肉消費量も、近年は年間3000~5000トンで、ピーク時(1962年度)の1~2%ほど。若者の中には、クジラを一度も食べたことがないという人も多いだろう。

 クジラは戦後食料難にあえぐ日本人の貴重なたんぱく源だった。しかも、日本の鯨文化は有史以前からだという。これをこのまま衰退、消滅させてしまうのは、そのおいしさ、食料安全保障の観点からもあまりにもったいない。無論、クジラの資源管理・保全が前提だが。

 斎藤さんはクジラの肉が低カロリー、低脂肪、高たんぱく質で、抗疲労成分も含まれているとして、「健康に資するデータや多彩なメニューをそろえてアピールしたい」と強調する。

 クジラ肉がブランド化して、たくさんの観光客が鮎川地区に集まり、地域が盛り上がる。そんな鮎川地区の人々の夢をかなえるための一歩として、様々な機会をとらえて多くの人の「胃袋」に直接訴えるという二階氏の手法は大いに参考になるのではないか。口にする人が多ければ多いほど、クジラ肉のファンが増えると思うからだ。これは、一消費者の意見として。

牡鹿半島先端に金華山望む絶景スポット

 【追記】鮎川浜から車で約5分、牡鹿半島の先端に「おしか御番所公園」という金華山を望む絶景スポットがある。半島西岸には、慶長18年(1613年)に伊達政宗の命を受けて支倉常長がローマをめざして出帆した地「月浦(つきのうら)」があり、常長の像も建てられている。鮎川観光の際に立ち寄ってみてはいかがだろう。

プロフィル
池辺 英俊(いけべ・ひでとし)
1966年4月、東京・渋谷生まれ。福岡で青春時代を過ごす。90年、読売新聞東京本社入社、甲府支局で記者生活スタート。その後、政治部に約20年間在籍。首相や外相、自民党幹事長同行の外遊は30回を超える。急性骨髄性白血病の闘病・移植治療を経て、2020年2月に東北総局長として初のみちのく赴任。奥深い自然や文化、人々のあたたかさに感銘を受け、週末ごとに東北各地を巡っている。

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2112274 0 We Love みちのく 2021/06/10 12:00:00 2021/06/10 12:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/06/20210607-OYT8I50062-T.jpg?type=thumbnail

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