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福島・奥会津の峡谷、渡し舟で幻想的な川霧を堪能

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福島支局長 広中正則

水温低く空気と温度差、広く緩やかな流れ

 薄いベールのような川霧の中を木舟が滑っていく。そんな景色を一目見たいと、7月中旬、福島県西部・奥会津にある「 霧幻峡(むげんきょう) 」を訪ねた。群馬県境の尾瀬を水源とする只見川の切り立った渓谷には、その名の通り、幻想的な空間が広がっていた。

只見川の水面いっぱいに広がった川霧。雲海のようだ
只見川の水面いっぱいに広がった川霧。雲海のようだ

 福島市から高速道を使って車で約2時間半。金山町、三島町境を流れる只見川の霧幻峡に着く。この辺りは川をせき止めたダム湖になっていて、流れがほとんどない。川幅は80メートル前後、水深も30メートルほどあるという。澄んだ緑色の 水面(みなも) が、両岸に迫る木々の緑を鏡のように映し出す。川沿いを走るJR只見線の「めがね橋」も見える。

JR只見線の「めがね橋」をわたる列車。舟の上からの眺めもいい
JR只見線の「めがね橋」をわたる列車。舟の上からの眺めもいい

 奥会津の写真を撮り続けている郷土写真家・星 賢孝(けんこう) さん(72)に渡し舟の船頭をお願いした。星さんは、1964年(昭和39年)に廃村となった、近くの 三更(みふけ) 集落の出身で、子供の頃から「生活の足」として舟を漕いでいたそうだ。

 星さんの話では、川霧が現れるのは、6月~9月上旬の計80日ほど。夕方に発生し、翌朝にかけて残る。只見川は、尾瀬の雪解け水や周辺の沢水を集めるため水温が低く、空気との温度差が開きやすい。流れが緩やかで川幅が広い。川霧の発生条件がそろっているのだという。

日没の頃に突如出現、一気に広がった雲海を進む

 午前6時、三島町側の早戸船着き場で星さんと待ち合わせた。しかし、川霧は出ていなかった。「湿気がたりなかったな。時間や場所によって出方が変わるから、なかなか読めないんだ」と星さん。

 半日後の午後5時半、再び船着き場へ。やはり霧は出ていなかったが、舟を出してもらった。まだ気温は約30度だったが、舟上を吹く風は涼しく、川水に触れるとひんやり冷たい。

太陽が沈んだ頃、川霧がわきたつように広がった。昔使われていた船着き場にいったんおりて、霧の中を滑る木舟を撮影した
太陽が沈んだ頃、川霧がわきたつように広がった。昔使われていた船着き場にいったんおりて、霧の中を滑る木舟を撮影した

 午後6時過ぎ、太陽が山の向こうに沈み始めた頃だ。川面にうっすらと霧がかかり始めた。陽光があたっているところが発生源のように見える。どんどん厚みを増し、わきたつように一気に広がった。もう向こう岸はよく見えない。雲海を進む感覚だろうか。わずか10分ほどのことだった。

 「いっちょまえになってきた。風で飛ばされない限り、朝まで残ると思いますよ。空振り三振かと思ったら逆転ホームランだ」。星さんも、ぎしぎし () を動かしながら楽しそうだ。

川霧の中、木舟で櫓を漕ぐ星さん。ヒグラシの声が遠くから響いていた
川霧の中、木舟で櫓を漕ぐ星さん。ヒグラシの声が遠くから響いていた

 よくよく聞くと、この辺りを「霧幻峡」と言い始めたのも、三更集落の廃村とともに消えた渡しを2010年に観光舟として復活させたのも、星さんら集落の元住民だという。台湾や東南アジアから観光客が訪れるようになり、今は金山町観光物産協会が受け継いでいる。「昔ながらの 手漕(てこ) ぎでね。情感というのかな。川霧はここの一番の宝だからね」。星さんの言葉には、故郷への思いがにじんでいた。

硫黄鉱山の廃坑で山崩れ、民家埋まり廃村に

三更集落の跡に立つお地蔵さま。64年の裏山崩壊の際、流れてきた土砂が手前で止まったという
三更集落の跡に立つお地蔵さま。64年の裏山崩壊の際、流れてきた土砂が手前で止まったという

 日中に、川岸近くにあった三更集落の跡を案内してもらった。前回の東京オリンピックの年、廃村になったのは災害によるものだったという。10戸ほどの集落の裏山にあった硫黄鉱山の廃坑から山崩れが起こり、かやぶきの民家を埋めたのだ。それでも、お地蔵さまや神社、観音堂などは難を逃れ、当時の姿をとどめる。「舟は一家に一 (そう) あった。対岸の駅に行くにも、木のつり橋まで遠いし、冬は3メートルの雪で閉ざされてしまう。どこに行くにも舟を使ってね、物心つくころには1人で乗ってた」「白黒テレビがあったのは集落で2軒かな。夜になると、テレビのあるうちにみんな集まってプロレスとか、歌番組とか見たもんだよ」……。

日中、澄んだ緑色の水面を木舟が進む。両岸の木々の緑が鏡のように映る
日中、澄んだ緑色の水面を木舟が進む。両岸の木々の緑が鏡のように映る

 星さんの思い出話を聞きながら、300年続いた集落の結末を思った。

 峡谷に漂う川霧。その向こうには昭和の原風景があるのではないか、と思えてならなかった。

◆一般社団法人金山町観光物産協会 0241・42・7211

◆舟の基本料金6000円(45分、3人以内)、4人以上、集落の散策は別料金

プロフィル
広中 正則(ひろなか・まさのり)
1970年9月、山口県岩国市生まれ。93年、読売新聞東京本社に入社し、宇都宮支局に。以降、地方部内信課、社会部、教育部などを経て、2020年9月から福島支局長。単身赴任の気楽な立場を生かし、福島県内の59市町村すべてに足を運ぼうと、休日のたび観光ガイドを繰っている。

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使い方
2240387 0 We Love みちのく 2021/07/29 12:00:00 2021/07/29 12:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/07/20210727-OYT8I50025-T.jpg?type=thumbnail

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