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住みたくなる!福島・川内村の旅

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東北統括本部 原田信彦

巨大災害を振り返る

 「山里を満喫するモニターツアーをやるので、一緒に行きません?」。国内外で様々なツアーを手がける読売旅行のベテランからのお誘い。コロナ禍が下火になったこともあり、二つ返事で乗った。福島県東部の阿武隈山中。約200平方キロメートルの広大な土地に、人口2000人余が住む川内村だ。詩人の草野心平が気に入り、たびたび通った地だという。「初冬の静かな風情をしみじみ味わうのも悪くない」と思っていたら、図らずも学びに満ちた1泊2日となった。

あぶくま洞付近から望む川内村
あぶくま洞付近から望む川内村

 ツアー参加者は、都内や千葉など首都圏からの13人。単独、友達同士、ご夫婦など様々な面々だ。一行は貸し切りバスで東京を出発、常磐道を北上した。

 まず訪ねたのは川内村に隣接する双葉町の「東日本大震災・原子力災害伝承館」だった。福島は過去10年余、津波被害と原子力災害からの復興という困難な道のりを歩んでいる。原発事故がなぜ起きたのか、現状はどうなのか、人々は当時、どう避難し、どんな思いで帰還し、どのように復興を進めているのか――。展示は多くの疑問に答えてくれる。事故の教訓だけでなく、復興に取り組む人々の力強さが伝わってくる。多くの人に見てほしい。

 同館は福島第一原発から直線距離でわずか6キロほど。施設に隣接する双葉町産業交流センターの屋上テラスに登ると、丘越しに原発の高い排気筒が見える。その下では、世界でも類をみない廃炉作業が進んでいる。

世界最先端の山里

「KiMiDoRi」の栽培室を満たす紫色の光。なにやら未来的だ
「KiMiDoRi」の栽培室を満たす紫色の光。なにやら未来的だ

 再びバスに乗り、いよいよ阿武隈山地へ分け入る。山道を約1時間で川内村に到着した。最初に立ち寄ったのは、食品加工場のような建物だった。世界最先端の野菜工場「株式会社KiMiDoRi(キミドリ)」。2013年、「全く新しい農業による復興の推進」を目的に、村などが出資し設立した。室内は完全密閉され、LEDと蛍光灯の光でリーフレタスやバジルを水耕栽培している。ミーティングルームから窓越しに見える栽培室はLEDの赤と青が混じった紫色の光に満たされ、工場が建つ冬枯れの里山の光景とはかけ離れた雰囲気だ。パック詰めで出荷される野菜は「密閉栽培なので病気とも害虫とも無縁。もちろん、洗わずに食べられます」と、スタッフの兼子まやさん(36)が説明する。ううむ、単なる田舎の村ではない。

 次に訪れたのは、街づくりを支援する法人組織「かわうちラボ」。復興を率いてきた遠藤雄幸村長(66)の話に耳を傾けた。村は原発事故でいったんは全住民の避難を余儀なくされたが、放射線量は低く、約1年後には住民の帰還が始まったという。役場は復興への施策を次々と打ち出した。企業誘致による雇用対策、路線バスによる住民の足の確保、「子育て支援住宅」の建設、小中一貫学校の整備――。村へ移住し、子育てをする若い世代も現れている。「希望を失わないことが一番大事。村に足を運んでもらい、見てほしい」。エネルギッシュに語る村長は、単なる復興を超えた理想郷づくりを目指している。

村の復興を語る遠藤町長。「寄り合い」のような雰囲気だった
村の復興を語る遠藤町長。「寄り合い」のような雰囲気だった

 講義の後は、村自慢の温泉入浴施設「かわうちの湯」へ。館内も浴室も広々として気持ちがいい。湯はアルカリ度が高く、肌がつるつるになる。露天風呂やサウナも完備しており、とてもぜいたくな気分で体を温めた。大満足で施設を出ると、頭上には満天の星が広がっていた。「すごい!」「カシオペアがあんなにはっきり!」。ツアー仲間から感嘆の声が上がった。

野菜とワインと蕎麦

 2日目の朝は寒さで目覚めた。まだ11月末なのに気温はマイナス3℃。 (りん) とした山の空気は、むしろ心地いい。宿泊先はいわゆる民宿で、田舎に帰ったような懐かしい気分に浸れた。

とれたての野菜を手に、ツアー参加者と生産者で仲良く記念撮影した
とれたての野菜を手に、ツアー参加者と生産者で仲良く記念撮影した

 午前のテーマは「食」。まずは村内の施設に行き、地元でとれた野菜をもらった。なんかぜいたくな企画だ。「遠慮なくどうぞ」と、生産者の皆さんがニコニコ顔で勧めてくれる。白菜、大根、ブロッコリー、ジャガイモ……どれもうまそう。「山の中なので一日の寒暖差が大きい。それで野菜がおいしく育つんですよ」と、かわうちラボの 井出寿一(いでじゅいち) 事務局長(68)は胸を張る。野菜を手に、みんなで記念撮影した。参加者の一人、保育士の麻野恵子さん(45)は「近頃はカット野菜しか見たことがない子どももいる。ここで食育を体験させたいですね」と感心しきりだ。

 次いで訪問したのは「かわうちワイン株式会社」。山の中腹に広がるブドウ畑は、元々は牧草地だったという。シャルドネやメルロー、カベルネ・ソーヴィニオンなどのワイン向け品種約1万1000本が植えられている。ワイナリーの建物からは、収穫を終えたブドウ畑の向こうに、阿武隈山地の緩やかなうねりが望める。ヨーロッパを思わせる景色に「これは () えるねえ!」。一行で写真を撮りまくった。同社の遠藤一美・統括マネージャーによると、試しに醸造したワインは「酸味のバランスがとてもいい」そうだ。もうすぐ本格醸造がスタートする。ホームページでは収穫ボランティアなどのイベントが紹介されている。時期によっては得がたい体験ができそうだ。

ぶどう畑はヨーロッパのような雰囲気
ぶどう畑はヨーロッパのような雰囲気

 村の中心部へ戻っての昼食は、特産品のそばだ。お邪魔した「 蕎麦(そば) 酒房 天山」は、平日でもあっという間に売り切れ御礼の人気店だ。自慢の「十割そば」は、細い上品な麺。表面のツヤが、いかにもみずみずしい。辛めのつゆを少しつけていただく。香りが鼻に抜け、かすかな甘みを感じる。至福だ。村にはそば打ち体験ができる交流施設がある。こちらもいずれ訪れたくなった。食後のコーヒーは近くの「カフェ・アメイゾン」にて。ログハウス風のしゃれた店だ。タイで大人気のチェーン店で、ここが日本一号店だそう。ううむ、この村、アメイジング。

大地の営みを感じる

 最後の立ち寄りスポットは、隣町の田村市にある「あぶくま洞」。日本有数の鍾乳洞として知られる。全長600メートルの見学コースは階段だらけで少々ハードだが、様々な形の鍾乳石や 石筍(せきじゅん) が織りなす地下宮殿を上下から立体的に眺められる。ちょっとした探検気分を楽しんだ。山腹にある駐車場からは、川内村が一望できた。千葉県習志野市から参加した山之内海大さん(28)、恵利菜さん(33)夫妻は「村の人たちの、和気あいあいとした雰囲気がとても印象的だった。のんびり、おだやかに過ごすにはいいところですね」と、名残を惜しんだ。おっしゃる通り。住んでみたくなる村だった。もらったブロッコリーはシチューに入れようか、サラダにしようか。

◆川内村の観光スポット
平伏(へぶす) 沼:モリアオガエル生息地
高塚山:初夏のサラサドウダンが美しい
天山文庫:草野心平が寄贈した蔵書などを所蔵。かやぶき屋根が魅力
阿武隈民芸館:村に伝わる民芸品や木工品などを展示
いわなの郷:イワナ釣りやそば打ち体験を楽しめる

プロフィル
原田 信彦(はらだ・のぶひこ)
長年、科学記者として素粒子から先端医学、天変地異など幅広い分野を担当。昨年2月、仙台に着任した。コロナ禍で東北の夏祭りはいまだに見られていないが、ランニングや登山、スキー、温泉めぐりなど春夏秋冬を大いに楽しんでいる。

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2581432 0 We Love みちのく 2021/12/09 12:00:00 2021/12/09 12:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/12/20211207-OYT8I50055-T.jpg?type=thumbnail

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