冬の使者、ハクチョウを秋田で撮る

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秋田支局長 田中成浩

遠路はるばる見に行かずとも…

 秋になって、風景の衣替えとも言える稲刈りが終わりに近づいた頃からだろうか。秋田県内を車で走っていると、刈り取りからしばらくたち、ひこばえ(=樹木の切り株や根元から生えてくる若芽)で再び青々とした田んぼに、点々と白い固まりを見つけるようになった。

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飛行訓練だろうか。時折、群れで飛ぶ様子を見ることができる(11月27日、秋田市で)
飛行訓練だろうか。時折、群れで飛ぶ様子を見ることができる(11月27日、秋田市で)

ひこばえで青々とした田んぼに白い群れが映える(11月7日、横手市で)
ひこばえで青々とした田んぼに白い群れが映える(11月7日、横手市で)

 ゆっくりと近づいてみると、なんとハクチョウの群れだ。関東出身の私にとって、ハクチョウは遠路はるばる見に行くものだった。長野県安曇野市の 犀川(さいがわ) だったり、福島県の猪苗代湖だったり。新潟県の 瓢湖(ひょうこ) にも行っただろうか。どこもちょっと出かけてみようかというには、あまりにも遠かった。

 それに、早朝でなければ見ることはできないという先入観もあった。朝日を浴びて飛び立つハクチョウの群れの写真を、多くの方が目にしたことがあるだろう。しかし、夜型の生活を基本としている私のような者にはハードルが高いと思っていた。

 しかし、秋田ではそんなハードルなどなかった。秋田市内の家を車で出て1時間もかからないところで、しかも昼頃にハクチョウを見ることができるのは、ちょっとした驚きだった。

車内から望遠レンズでこっそり撮影

羽を広げる姿は美しい(11月27日、秋田市)
羽を広げる姿は美しい(11月27日、秋田市)

 最初の出会いの時は、望遠レンズを持っていなかったので、それ以来、出かけるときは望遠レンズ持参を心がけた。

 昼のハクチョウ探しで難しいのは、ここに行けば会えるというわけにはいかないことだ。こんな所だったらいるんじゃないかなと思っても、いないのは当たり前。むしろ、あまり期待しないでいると、逆に会えることが多い。不思議なことだ。

 出会えれば貴重なチャンス。驚かせてはいけないので、ハクチョウの様子を見ながら、そっと車で接近する。人の姿を見せてビックリさせては申し訳ないので、車内からの観察だ。

 優美なハクチョウの姿を撮影するという健全な理由があるから問題ないのだが、車内から望遠レンズでこっそり撮影する自分の姿は、有名人のスキャンダルを撮影する週刊誌のカメラマンと同じ姿かもしれないと連想して、思わず苦笑いした。

群れの方から「シャカ、シャカ」と…

地面に落ちた餌をひたすら食べる(11月10日、能代市で)
地面に落ちた餌をひたすら食べる(11月10日、能代市で)

 いよいよ撮影。車の窓を下ろす。農作業の終わった田んぼは人影もなく、吹き渡る風の音がするばかり。かと思ったら、「シャカ、シャカ」と何やら音が聞こえてきた。距離や風向きにもよるのだろうが、それなりにやかましい。

 何の音だろうと観察していると、群れの方向から聞こえてくるようだ。田んぼの水たまりに顔を突っ込んで、せわしなく動いているハクチョウが出している音らしい。水を飲んでいるようにも見えるが、どうやら水中の水草や稲の落ち穂をくちばしで () して食べているときの音のようだ。

 もちろん、水たまりに限らず、刈り取り後の田んぼにもくちばしを突っ込んで何やら食べている。昼間は、こうして何かを食べていることが多いが、そうでなければ寝ていることも多い。

散歩する人に驚いて一斉に飛び立つ(11月28日、能代市で)
散歩する人に驚いて一斉に飛び立つ(11月28日、能代市で)

鳥インフルで状況一変、餌やりは自粛

 かつては秋田県内でも、横手市十文字町の皆瀬川で地元ボランティアや観光客が餌を与えることで、群れを間近で見ることができた。2007年の読売新聞秋田県版には、触れることができるくらい至近に集まったハクチョウたちに子供が餌をやる様子の写真が掲載されている。

 しかし、鳥インフルエンザの発生で状況は一変。餌付けされた鳥たちが集中することによる大量感染や、居合わせた人間が媒介となって拡散させてしまう恐れなどから、餌やりは自粛となった。餌を当てにできなくなったために、群れは各地に拡散してしまったとみられる。

雪が降った田んぼでは、白い羽は保護色だ(12月5日、秋田市で)
雪が降った田んぼでは、白い羽は保護色だ(12月5日、秋田市で)

 ハクチョウは野生動物だから、現在の状況が本来の姿なのだろう。しかし、餌付けという形ではあるが、かつての人間との近さを写真で見ると、その時代をうらやましく感じてしまった。

 ともあれ、ふと出会ったハクチョウの様子を遠巻きながら見ていると、時間の経過を忘れることがある。仕事や雑事に追われ、不規則な生活で忘れてしまった、ゆったりとした時間の流れを取り戻させてくれるためだろうか。

 日常生活で、身近にハクチョウを感じることができる秋田は恵まれているのだろう。自宅近くを歩いているときにも、姿は見えずとも、あの甲高い鳴き声が聞こえてくることがあるのだから。

プロフィル
田中 成浩(たなか・なるひろ)
1965年3月7日、東京都生まれ。89年、読売新聞東京本社に写真記者として入社。以来、写真畑を歩む。これまでの赴任地は大阪、名古屋で東北地方は2020年11月からの秋田が初めて。みちのくの自然や文化を知るにつけ、写真に記録したい思いに駆られている。

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2618716 0 We Love みちのく 2021/12/23 12:00:00 2022/04/07 19:22:29 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/12/20211220-OYT8I50066-T.jpg?type=thumbnail

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