〈続・伊達なジャズ喫茶1〉50年前から時が止まる空間…仙台・カウント

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 ジャズ喫茶とは不可思議な場所だ。音楽が一番の売り物なのに、金は取らない。コーヒーはせいぜい1杯500円で、大してもうかるはずがない。しかし、宮城県内には今も数々の名店が残り、ここ10年で新規オープンする店も相次いでいる。2021年、宮城のジャズ喫茶を紹介したところ、多くの反響が寄せられた。今回はその続編。一癖も二癖もある名店、新店、そして店主のディープな個人史を紹介したい。

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人の背丈ほどもあるスピーカーの前に立つ朴沢さん
人の背丈ほどもあるスピーカーの前に立つ朴沢さん

※この記事は、2021年11月19日から12月2日にかけて読売新聞宮城県版に掲載した連載記事に加筆・修正したものです。冬の特別編として、5回(予定)に分けてお届けします。

棚にはレコード8000枚、黄金期の濃密な空気

昼でも暗い通路の突き当たりに店はある
昼でも暗い通路の突き当たりに店はある

 繁華街の一角にある雑居ビル。昼でも暗い通路を恐る恐る抜け、突き当たりのドアを開けると、昭和の時代から時が止まっているかのような空間が現れる。仙台市のジャズ喫茶「カウント」は1971年に開店して以来50年間、同じ場所、同じスタイルで営業してきた老舗だ。

 薄明かりの下、棚には8000枚のレコードが並び、人の背丈よりも大きな米アルテック製のスピーカーからは、優しく包み込むような音色のジャズが大音量で流れる。かかっているのは、アート・ペッパーにカーティス・フラーと、正統派モダンジャズの名盤の数々。1960~70年代のジャズ喫茶黄金期の濃密な空気が、そのまま保存されている。

 「初めての人は入りにくい、とよく言われる。そんなつもりはないんですが……」。マスターの 朴沢(ほうざわ) 伸夫さん(74)は苦笑いする。確かに昔は私語厳禁の硬派な店だった。しかし今はそのルールも撤廃され、ほどほどならば問題なし。そして、取っつきにくさを乗り越えた先に、誰にも邪魔されない音楽的快楽がある。「そういう店があってもいいんじゃないかな」

棚には約8000枚のレコードが並ぶ。実はリクエストも大歓迎
棚には約8000枚のレコードが並ぶ。実はリクエストも大歓迎

リクエスト受け「ない」と答えるのはシャクだから…

 店の出発点は約半世紀前、仙台のとあるジャズ喫茶にて。後にオーナーとなる福原恵一さん(故人)と、ビッグバンド好きで意気投合した。70年、後に「日本一音がいいジャズ喫茶」と言われることになる「ベイシー」が岩手県一関市にオープンし、一緒に車で毎週のように通ううちに、福原さんが「仙台でジャズ喫茶を始めたい」と言い出した。福原さんは本業があったため、大学4年生だった朴沢さんがマスターを引き受けた。

 店の名前はもちろん、名門ビッグバンドを率いた米ピアニスト、カウント・ベイシーから。ジャズ喫茶「ベイシー」店主、菅原正二さんの著書にはこうある。「店の名前は『アメリカーナ』にするというので、ぼくが『カウント』を名乗っていいから、といって出来たのが、今の『カウント』だ」(「ジャズ喫茶『ベイシー』の選択」より)。

 当時はジャズ喫茶全盛期。店の23席はすぐに埋まり、行列ができた。コーヒー1杯数十円の時代に、レコードは2000~3000円。若者は高くて買えず、ジャズ喫茶に聴きに行くというのが当時の文化。コーヒー1杯で2、3時間粘る客もざらだった。

 もうけは全部、新たなレコードに充てた。「リクエストを受けて『ない』と答えるのはシャクだから」というのがその理由。「毎月40、50枚は買うのが普通でした。客の方が詳しいこともあり、受け答えが大変。店をやりながら、必死で勉強しましたね」

 しかし、いい時代はいつまでも続かない。CDが安く、気軽に買えるようになった90年代には、客足の減りが顕著になった。夜は音量を絞ってBGMのようにし、一般的なバーへの転換を検討したこともあった。しかし、常連客たちの「このままがいいよ」という言葉で、踏みとどまった。

「レコードっていいですね」…若者も訪れるように

濃厚なジャズにぴったりのコーヒー
濃厚なジャズにぴったりのコーヒー

 福原さんは94年に亡くなり、朴沢さんが店とレコードを引き継いで今に至る。「自分でもまさか、50年もやるとは思ってもいなかった」と率直に語る一方で、あの時、「音を変えなかったこと」が、店が長く続いた理由だと思っている。

 客層は繁華街を訪れるサラリーマンが中心。転勤や定年で客の顔ぶれは入れ替わっても、変わらぬ店の空気と濃密なジャズが人々を引きつける。最近のレコードブームで、若者が訪れては「レコードっていいですね」と満足して帰っていく。

 朴沢さんにジャズの魅力を尋ねると、「飽きない」と短い答えが返ってきた。「同じレコードを何回も聴いていると、全部覚えてしまう。でも飽きない。それだけ、奥が深いってことじゃないかな」。栄枯盛衰を超えた先にある言葉だった。

(文・読売新聞東北総局 鶴田裕介、写真・武藤要)

【メモ】仙台市青葉区一番町4の5の42。日曜定休。(電話)022・263・0238

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