〈続・伊達なジャズ喫茶3〉蔵の中からすさまじい音量…宮城県栗原市・ジャキ

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 旧北上川の支流・迫川が悠然と流れる宮城県栗原市の若柳地区はかつて水運で栄え、多くの蔵があった。この街に、大正時代に建てられたとされる蔵を活用するジャズ喫茶「ジャキ」がある。

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蔵の中で爆音のジャズを楽しむマスターの三浦さん
蔵の中で爆音のジャズを楽しむマスターの三浦さん

「ボリューム上げないとジャズはつまんねえ」

 歴史を伝える店構えもさることながら、蔵の中から発せられるすさまじい音量に、思わずのけぞる。11年前の東日本大震災で壁の一部が傷んだものの、遮音性に優れる厚い土壁だからこそ出せる音量だ。「ボリュームをある程度上げないと、ジャズはつまんねえと思いますよ。初めての人が来ると特に上げるんです。ここはジャズ喫茶だぞ、って」。マスターの三浦茂利さん(68)は、本気とも冗談ともつかない顔つきで語る。

 蔵の奥に構える米エレクトロボイスのスピーカーは、本来ライブで使われるものだ。普通のジャズ喫茶は演奏全体をバランスよく聴かせようとするのに対し、この店は特定の楽器の音がガツンと突き抜けてくる。ライブハウスで聴く生演奏のように、個々の演奏者に焦点が合うよう調整されている。「ライブでは、ピアニストがソロを弾き出したらピアノの音が出てくるし、ベースソロならベースの音が耳に入るでしょう。目も自然とそちらにいくしね」。この店独特の爆音と相まって、暴力的ともいえる音の生々しさがある。「ヤクザな音だなあ、と自分でも思う」と三浦さんは苦笑する。

 記者が初めて店を訪れた日は、グラミー賞にノミネートされたジョシュア・レッドマン、ブラッド・メルドーらによるカルテットの新作「ラウンドアゲイン」が流れていた。マイルス・デイビスにセロニアス・モンクと、大御所の名盤がかかりがちなジャズ喫茶で、三浦さんは比較的少数ともいえる「新譜派」だ。「このジャズを聴け!みたいな態度は嫌なんです。こういうジャズもあるんだな、というのを楽しみで聴いている」と、現在進行形のジャズを追い続ける。

「ジャキ」が入る蔵
「ジャキ」が入る蔵

 少し変わった店の名は、知る人ぞ知る米ピアニスト、ジャッキー・バイアードのアルバム「here’s jaki」から。「『あまのじゃく』から取ったのかとか、『ジャズ喫茶』からか、とかよく言われるんだけどね」

震災で農場被災、復旧後に再び店に本腰

 高校時代は、学校の目の前に「日本一音がいいジャズ喫茶」と言われる「ベイシー」(岩手県一関市)があり、よく通った。早稲田大学に進学して上京すると、ジャズ評論家の寺島靖国さんが東京・吉祥寺で経営していた「メグ」の常連に。1970年代当時としては珍しく、欧州系の新譜がよくかかっていたからだ。そして夜は、1000円も払えば生演奏に触れられるライブハウス通いに明け暮れた。要するに、ジャズ三昧の学生時代だった。

 卒業後、家業の農場で働くために地元に戻ると、東京から持ち帰ったオーディオ機器を自宅の蔵の2階に置き、友達を呼んでは音楽を楽しんだ。「余裕ができたらジャズ喫茶でも」との思いを実行に移したのは93年。新作レコードをがんがん流し、国内外のミュージシャンを招いては蔵でライブを開いた。東日本大震災では、本業の農場にも大きな被害が出た。復旧に手いっぱいとなり、再び店に本腰を入れられるようになったのは、ここ数年のことだ。

自分の快楽、人に見せ「恥ずかしながらやっているんです」

新譜のレコードに針を落とす三浦さん
新譜のレコードに針を落とす三浦さん

 生演奏と新譜を貪欲に求め続ける三浦さんの姿勢は、青春時代から地続きだ。どうも商売っ気が感じられないのは、自身もリスナーとの意識が強いから。「自分の快楽を人に見せるのは、恥ずかしいこと。恥ずかしながら、店をやっているんです」

 新型コロナウイルスの流行もあり、今は客から電話があった時だけ店を開ける。三浦さんの親より上の世代にとって、蔵は古いものを押し込めておく、ある意味タブーな場所だったそう。そんな場所で繰り広げられる音楽は、どこか秘密めいたにおいがする。(読売新聞東北総局 鶴田裕介)

【メモ】栗原市若柳川北中町18。来店前に電話(0228・32・4771)を入れると店を開けてくれる。

※この記事は、2021年11月19日から12月2日にかけて読売新聞宮城県版に掲載した連載記事に加筆・修正したものです。冬の特別編として、5回(予定)に分けてお届けします。

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