圧倒的な存在感!岩手県は素晴らしい「巨大屋根」の宝庫

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盛岡支局長 林英彰

 各地の名所マップを眺めていると、巨大な屋根の建物につい目が行ってしまう。生まれ育った家の屋根が小さくてうらやましいのではなく、これまでの経験から、はずれがないからだ。今回、このコーナーにかこつけて、岩手県内の巨大な屋根を訪ねた。圧倒的な存在感にやはり大満足。穴場としてお勧めします。

IGRいわて銀河鉄道の沿線は、岩手山の雪と田植えと青空…春の「みちのく路」を満喫できます
正法寺の法堂。手前に小さく写っているのが、案内してくれた海野さん
正法寺の法堂。手前に小さく写っているのが、案内してくれた海野さん

法堂屋根の威容に誰もが「えっ!」…曹洞宗の古刹・正法寺

 まずは県南部。3月の晴れた日、奥州市水沢黒石町にある曹洞宗の 古刹(こさつ) 、正法寺にお邪魔した。陸前高田市に向かう国道近くだ。かつては永平寺、総持寺と並ぶ「第三の本山」の格式で、往時の末寺数は1200ともいわれる。いま、その数は73だが、それでも相当多い。

1665年に建てられた惣門。寺で一番古い建築物
1665年に建てられた惣門。寺で一番古い建築物

 寛文5(1665)年建築の惣門(国指定重要文化財)、文福茶釜や八つ房の梅といった寺の「七不思議」など、興味がそそられるものは多い。だが、同じく国重文の 法堂(はっとう) (本堂)に載る日本最大級の 茅葺(かやぶ) き屋根を見た瞬間、「いやあ、これは……」。言葉が続かなかった。

 建物は間口約30メートル、奥行き約21メートル、棟高約26メートルで、屋根はかなり急傾斜だ。迫力ある威容に加え、茅の葺き方が整然として美しい。

 県内で最も有名な寺は、おそらく世界文化遺産の構成資産である中尊寺。奥州市に接する平泉町にある。正法寺の案内役を務めてくれた同寺布教師の 海野(うんの)義範(ぎはん) さんは「中尊寺はきらびやかさがある」と語る。その上で「ここは屋根です!」と、気持ち良く“屋根推し”宣言をしてくれた。「見に来た人はみんな、『えっ!』となります」。私の反応は、決して過剰ではなかったのだ。

その屋根は大きくて繊細で、なおかつ「生きている」

開山堂から見る法堂。右奥に屋根で育つ松が見える
開山堂から見る法堂。右奥に屋根で育つ松が見える

 いまの法堂は、約200年前の火災の後に再建された。海野さんによると、伊達藩の支援を受けたが予算的に厳しく、瓦でなく茅を葺くことになったようだ。理由はともかく、今の時代、茅葺きでより価値が高まった気がする。

 じっくり観察するには、法堂脇の階段を上ったところにある開山堂がお勧めだ。寺ゆかりの禅師の像や歴代山主(住職)の 位牌(いはい) などを奉ってある場所だが、外を見ると、法堂の側面が目の前に迫る。大きさといい、繊細さといい、職人の力量のすごさがわかる。

 「風情があるなあ」と感心していると、何かおかしい。よく見ると、法堂の裏側にあたる屋根部分に松が育っているではないか。背後の松林から種子が飛散して植え付いたらしい。寺は様子見の姿勢だが、屋根が生きているようで、大変貴重なものを拝見した気分になった。

法堂に展示されていた涅槃図(許可を得て撮影しています)
法堂に展示されていた涅槃図(許可を得て撮影しています)

 内部の見学は 庫裡(くり) から入る。これも国重文の大建築。法堂がなければ十分、主役を張れそうだ。法堂内では、1700年頃の作とされる 涅槃図(ねはんず) の展示公開中だった(今季はすでに終了)。縦約4メートル、横約5メートルとこれも大きい。

 一番気になっていたのは茅の葺き替えだ。海野さんいわく、50年に一度の予定で、前回は平成の大改修として実施した。次回は約30年後となるが、「その頃に職人や材料がちゃんとそろうか、心配はあります」と語る。間違いなく大変な作業だろうが、ぜひ、この屋根を維持してほしい。切に願うばかりである。

前方に雪山、と思ったら屋根だった…一戸町・旧朴舘家住宅

 お次は県北部の 一戸町(いちのへまち) 。町内の 小鳥谷朴舘(こずやほおのきだて) にある県内最大規模の茅葺き民家「旧朴舘家住宅」(国重文)だ。正確な年代は不明だが、文久2(1862)年の建築と伝えられている。

 訪れたのは極寒の2月上旬。八戸自動車道を一戸ICで下り、国道4号線をしばらく南下。案内板を左折してちょっと走ると、前方に雪山……。と、思ったら屋根だった。

雪に覆われた「旧朴舘家住宅」
雪に覆われた「旧朴舘家住宅」

 建物は上から見ると長方形で、間口約30メートル、奥行き約16メートル。こちらも視界に入るのはほぼ屋根だ。間近で眺めてみる。軒部分の葺きがなんと厚いことか。これが普通なのかもしれないが、見慣れていない筆者は興奮しっぱなしだ。気温は氷点下。かじかんだ手で何とかシャッターを切る。

いくら眺めても飽きない軒部分。葺きの厚さがわかる
いくら眺めても飽きない軒部分。葺きの厚さがわかる

 朴舘家は昭和初期まで大地主で、常時10人ほどを雇っていたらしい。林業や農業、牛馬生産など時代によって色々な仕事をしていたようだ。中に入ると、右側が牛や馬の飼育部屋。左側の居住空間には台所や納戸、座敷などがある、豪農の屋敷らしく広々とした造り。入り口から奥に延びる通路には、地元で農作業などに使われていた様々な道具が展示されている。使い方を想像しながら見るのも楽しい。

住宅内部。奥が炊事や食事のスペース。手前の炉のあたりで神楽が演じられることもあったという
住宅内部。奥が炊事や食事のスペース。手前の炉のあたりで神楽が演じられることもあったという

 所管する町教育委員会世界遺産課によると、広島県など遠くから訪ねてきた人もいるという。いまは、ここで地域の行事を開催し、人々が見学できるような活用法を検討中だ。旧朴舘家住宅とこの地の歴史や文化に、多くの人々が関心を寄せてくれると私もうれしい。世界遺産課さん、応援するよ。

「世紀の大修理」中のあの場所にも、いつか必ず…

 さて……。

 岩手といえば、馬屋と住居がL字形につながった (まが)() が有名だ。「一番立派なところは?」と尋ねると、多くの人が遠野市の「千葉家住宅」を挙げた。ところが、いまは「世紀の大修理」の真っ最中とのこと。仕方ない。いつか必ず見に行くことを誓い、今回は筆を置きます。

 ◆ 正法寺 =拝観料・大人500円、中学生300円、小人200円、未就学児無料。涅槃図は毎年2月を中心に公開。期間は要確認。電話0197・26・4041。

 ◆ 旧朴舘家住宅 =入場料はないが、ボランティアによる住宅保全活動に必要な材料費調達のため寄付金箱を設置。問い合わせは、一戸町教育委員会世界遺産課(電話0195・33・2111)。

プロフィル
林  英彰(はやし・ひであき
 1965年6月11日、千葉県生まれ。20代前半は米国に遊・留学して過ごす。92年、26歳で読売新聞東京本社に入社し、水戸支局に。国際部、ニューデリー・甲府・ジャカルタ・富山・成田の各支局、北陸支社事業担当、英字新聞部などを経て、2020年9月から盛岡支局長。音楽は民謡からメタルまで薄く広く愛聴。旅好き(冒険本、ロードムービーも)。広大な岩手県をはじめ、東北各地を隅々まで巡ってみたい。

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