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各地の名所マップを眺めていると、巨大な屋根の建物につい目が行ってしまう。生まれ育った家の屋根が小さくてうらやましいのではなく、これまでの経験から、はずれがないからだ。今回、このコーナーにかこつけて、岩手県内の巨大な屋根を訪ねた。圧倒的な存在感にやはり大満足。穴場としてお勧めします。

法堂屋根の威容に誰もが「えっ!」…曹洞宗の古刹・正法寺
まずは県南部。3月の晴れた日、奥州市水沢黒石町にある曹洞宗の

寛文5(1665)年建築の惣門(国指定重要文化財)、文福茶釜や八つ房の梅といった寺の「七不思議」など、興味がそそられるものは多い。だが、同じく国重文の
建物は間口約30メートル、奥行き約21メートル、棟高約26メートルで、屋根はかなり急傾斜だ。迫力ある威容に加え、茅の葺き方が整然として美しい。
県内で最も有名な寺は、おそらく世界文化遺産の構成資産である中尊寺。奥州市に接する平泉町にある。正法寺の案内役を務めてくれた同寺布教師の
その屋根は大きくて繊細で、なおかつ「生きている」

いまの法堂は、約200年前の火災の後に再建された。海野さんによると、伊達藩の支援を受けたが予算的に厳しく、瓦でなく茅を葺くことになったようだ。理由はともかく、今の時代、茅葺きでより価値が高まった気がする。
じっくり観察するには、法堂脇の階段を上ったところにある開山堂がお勧めだ。寺ゆかりの禅師の像や歴代山主(住職)の
「風情があるなあ」と感心していると、何かおかしい。よく見ると、法堂の裏側にあたる屋根部分に松が育っているではないか。背後の松林から種子が飛散して植え付いたらしい。寺は様子見の姿勢だが、屋根が生きているようで、大変貴重なものを拝見した気分になった。

内部の見学は
一番気になっていたのは茅の葺き替えだ。海野さんいわく、50年に一度の予定で、前回は平成の大改修として実施した。次回は約30年後となるが、「その頃に職人や材料がちゃんとそろうか、心配はあります」と語る。間違いなく大変な作業だろうが、ぜひ、この屋根を維持してほしい。切に願うばかりである。
前方に雪山、と思ったら屋根だった…一戸町・旧朴舘家住宅
お次は県北部の
訪れたのは極寒の2月上旬。八戸自動車道を一戸ICで下り、国道4号線をしばらく南下。案内板を左折してちょっと走ると、前方に雪山……。と、思ったら屋根だった。

建物は上から見ると長方形で、間口約30メートル、奥行き約16メートル。こちらも視界に入るのはほぼ屋根だ。間近で眺めてみる。軒部分の葺きがなんと厚いことか。これが普通なのかもしれないが、見慣れていない筆者は興奮しっぱなしだ。気温は氷点下。かじかんだ手で何とかシャッターを切る。

朴舘家は昭和初期まで大地主で、常時10人ほどを雇っていたらしい。林業や農業、牛馬生産など時代によって色々な仕事をしていたようだ。中に入ると、右側が牛や馬の飼育部屋。左側の居住空間には台所や納戸、座敷などがある、豪農の屋敷らしく広々とした造り。入り口から奥に延びる通路には、地元で農作業などに使われていた様々な道具が展示されている。使い方を想像しながら見るのも楽しい。

所管する町教育委員会世界遺産課によると、広島県など遠くから訪ねてきた人もいるという。いまは、ここで地域の行事を開催し、人々が見学できるような活用法を検討中だ。旧朴舘家住宅とこの地の歴史や文化に、多くの人々が関心を寄せてくれると私もうれしい。世界遺産課さん、応援するよ。
「世紀の大修理」中のあの場所にも、いつか必ず…
さて……。
岩手といえば、馬屋と住居がL字形につながった
◆ 正法寺 =拝観料・大人500円、中学生300円、小人200円、未就学児無料。涅槃図は毎年2月を中心に公開。期間は要確認。電話0197・26・4041。
◆ 旧朴舘家住宅 =入場料はないが、ボランティアによる住宅保全活動に必要な材料費調達のため寄付金箱を設置。問い合わせは、一戸町教育委員会世界遺産課(電話0195・33・2111)。

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