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登山道にとらわれず、好きなルートを歩けるのが雪山の楽しさだろう。4月23日。弘前城の桜は満開だったが、約40キロ離れた八甲田連峰最高峰の八甲田大岳(1585メートル)を訪ねた。登山道は1メートルほどの雪に覆われているため、軟らかい雪を踏みしめながら、林の中を縫うようにして頂上を目指した。
この季節だからこそのルート
青森市中心部の自宅を車で出て約1時間。標高約900メートルの

足を踏み入れるとシャーベット状の雪の「ジャリッ」という感触が伝わってくる。登山道が見えないため、木に取り付けられている「大岳コース」などの案内板を頼りに登り始めた。

雪がない季節だと、山腹を横切るような登山道をたどる。だが、登山道は雪で埋まっているために、林の中の木と木の間が開いているところを選んで登っていく。決められたルートではなく、岩や木を覆っている雪の上で自分の好きなルートを進む快感は、雪山登山の
木々の上を歩いている不思議
1時間半ほどで「

だが、今の季節は別だ。木々は1メートルほど積もった雪に覆われているため、雪の上を通って、仙人岱からほぼ直進して頂上を目指すことができる。あの密集した木々の上を歩いていると思うと不思議な感覚だ。30分ほどで合流した登山道は雪が解けて地面が露出していて、1時間ほどで頂上に着いた。
分厚い雪、クッションにも

下りも、夏の登山道とは違う沢を選んだ。夏だと石に足を取られて転びそうなために足を踏み入れられないが、今は分厚い雪に覆われているから歩けそうだ。雪がクッションにもなるため、雪が詰まった沢を快適に下ることができ、頂上を後にして2時間半ほどで酸ヶ湯温泉に戻ることができた。
酸ヶ湯温泉で温まり、棟方志功を思う

気温は低くなかったが、頂上付近は強風が吹き続けていたために体が冷えた。酸ヶ湯温泉に入って帰ろう。柱一本ないヒバ造りの「千人風呂」に入り、白く濁った湯につかると、体の芯から温まってくる。千人風呂を出て広い館内を歩くと、青森出身の版画家、棟方志功(1903~1975年)の作品が展示されていた。志功は湯治をしながら作品を彫ることもあるなど、酸ヶ湯温泉とは縁が深い。

志功は1929年(昭和4年)夏、酸ヶ湯温泉の従業員で、「鹿内仙人」とも呼ばれて親しまれていた鹿内辰五郎と八甲田大岳を登っていた。鹿内が仙人岱で竹笛を吹くと、両翼に丸い模様のあるタカが飛来。鹿内は「神鷹だ」と告げ、伏して拝む志功に、「世界一偉くなるぞ」と予言した。この日以来、志功はタカを好んで描くようになり、タカを描いた作品が数多く伝わっている。
残雪期の八甲田連峰はモノトーンの世界で、鳥の声一つ聞こえない静寂に包まれていた。だが、初夏の湿原には小さなクロサンショウウオが泳ぎ、紅葉の森林では鳥のさえずりが響く。四季それぞれに魅力のある表情を見せてくれる八甲田連峰の深い自然の中には、このようなタカが生息していても不思議ではないような気がしてきた。
5月の大型連休が終わると、八甲田連峰の雪解けも進んできた。今度は新緑に包まれた山を訪ねてみたい。
