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なぜこんな風景があるのだろう――。青森への転勤が決まってガイドブックを見ていた時、1枚の写真に引きつけられた。波が打ち付ける荒々しい岩のそばに、ゴルフ場のように広々とした芝生の草原が広がっている。梅雨入り前日の6月14日、行きたかった青森県八戸市の

「グワーッ」と鳴くウミネコ、踏まぬよう歩く
青森県八戸市から福島県相馬市までの太平洋沿いに整備された全長1000キロ超の道が「みちのく潮風トレイル」だ。今回歩いたのは、八戸市の

蕪島は国内最大のウミネコ繁殖地だ。階段を上って蕪嶋神社の境内に入ると、ウミネコとそのヒナが全く人を恐れずに「グワーッ」と鳴き声をあげている。踏まないようによけながら歩くのは不思議な感覚だ。
海岸に、なぜか高山植物
潮風と磯の香りを受けながらハマナスが咲く海岸沿いの遊歩道を歩く。白い花を咲かせ、種差海岸が南限のエゾノシシウド、大型のセリ科植物のオオハナウドなどが目を楽しませてくれる。

岬にある

柳沢さんによると、梅雨時に「やませ(山背)」と呼ばれる冷たい風が吹き付けて気温が下がるため、このあたりでは高山植物が咲くという。歩道の右側にはニッコウキスゲが咲いているが、左側の砂浜には、地中に根を張るスナビキソウや、紫色の花が鮮やかなハマエンドウが咲いている。「草原や砂浜、岩壁、松林など環境が多様なので、それぞれの環境に合った様々な種類の植物を見られるのが魅力でしょう」と柳沢さんは話す。

その先には、約2・3キロにわたって白い砂浜が続く大須賀海岸が延びている。海水浴場のほうから見ると、白い砂浜と、その上を掃くように押し寄せては引く波しか見えず、消波ブロックなど人工の構造物が全くない。今の日本では珍しい風景だろう。

異星人を案内するなら、この海岸に
松林を抜けると目の前が明るく開けた。ゴールの種差天然芝生地だ。元々は馬の放牧地だったために広々とした芝生の草原が、緩やかな起伏を伴って残っている。だが、海に面した側は、波に削り取られた荒々しい岩が連なるという対照的な風景だ。

司馬遼太郎が著書「街道をゆく」のなかで、「どこかの天体から人がきて地球の美しさを教えてやらねばならないはめになったとき、一番にこの種差海岸に案内してやろうとおもったりした」とたたえるほど、陸と海の美しさが凝縮されている。
文学者も画家もひかれた地
この地にひかれたのは司馬遼太郎だけではない。詩人・草野心平は「種差海岸」と題した詩で、種差海岸の月を「ザボンのような満月」とたたえた。画家・東山魁夷は海辺に放牧された馬を描いた「水辺放牧」という作品を残している。「大正の広重」とも呼ばれ、
今回歩いたコースは、秋になると真っ白なハマギクが咲くという。季節が移り変わるたびに歩いてみたい。そう思うほど心に残る道だった。

◆種差観光協会への問い合わせは(0178・38・2024)。また、種差海岸インフォメーションセンターのウェブサイトでは地元のガイドを紹介している。
