縫い針で磁石方位知る

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熱した縫い針は磁気を帯び、水に浮かべると正確に「北」を指した(伊賀市の三重大伊賀研究拠点で)=紀平さん提供
熱した縫い針は磁気を帯び、水に浮かべると正確に「北」を指した(伊賀市の三重大伊賀研究拠点で)=紀平さん提供

 見知らぬ土地で方位を知ることは、忍者にとって重要なことであった。方位を知る手段として、昼間なら太陽の方向、夜間なら月や北極星などの星の方向から判断することができる。しかしながら、天候によって太陽や北極星を見ることができない時もある。

 そんな時、忍者が使ったのが、今でいう方位磁石だ。忍者は、薄い鉄で船の形をした「耆著屈きしゃく」という小さな道具、あるいは縫い針に仕掛けをして持っていたようだ。

 さてそれはどんな仕掛けをしていたのであろうか。縫い針、あるいは耆著屈を真っ赤になるぐらい熱し、すぐに冷ますだけである。そして、水に浮かべると、針が南北を指すのである。

 果たして本当にできるのか。2015年6月、伊賀研究拠点(伊賀市ゆめが丘)で実験してみた。黒井宏光氏監修の書「忍者に学ぶ心・技・体 正伝 忍者塾 下巻」(すずき出版)にある通り、実際に縫い針の先をガスバーナーで熱し、冷ましてから水の入ったガラス容器に浮かべた。すると、縫い針はゆっくり回転し、南北を指した。

 ところが、日を変えて何回かやってみると、針全体は南北を指すのだけれども、針先は北を向く時もあれば、南を向く時もあった。これでは正確な方位が分からない。

 再度、歴史群像編集部編「決定版 忍者・忍術・忍器大全」(学研)など複数の文献を調べてみると、「針先を熱した方が南を指す」「針が南北を指している」「針の先が向いた方が北だった」など、文章の記述が一致していなかった。これらのことから、針先が北を向くのか南を向くのかまでコントロールできるのかという疑問が生じたのである。そこで、地学の文献を調べたり、実験を繰り返したりした。

 行き着いたのは、針全体を赤くなるまで熱し、冷却する時の針先の向きによってコントロールできるということだ。つまり、冷却時に針先を南に向ければ、針を水に浮かべると針先は南を向くようになり、針先を北に向けて冷ませば北に向く。

 これは「熱残留磁化」という仕組みを利用したものである。鉄はもともと磁石にくっつくが、ある一定の温度(キュリー温度)まで熱すると、その磁性がなくなる。そしてそれを冷やすと、鉄は地球の磁場の影響をうけて再度磁性を帯びるのである。このような磁化させる技術は中国で11世紀頃には使いこなしていたようである。

 再実験は16年5月、初めて野外で挑んだ。実際に、この針を使って方位を調べると、針先が目的とする方位を正確に指した。ところが、風のある所でやってみると、その影響を受けて判断できないこともあった。

 いずれにしろ、忍者は、現代でも専門家だけが知っているような科学的知識を有していたようだ。

       ◇

 紀平征希・伊賀研究拠点研究員

 陸水学。滋賀県立大院修了。湖沼や河川など水環境の研究に取り組む

無断転載禁止
10823 0 三重大発!忍び学でござる 2018/03/07 05:00:00 2019/02/19 22:02:40 熱した縫い針は磁気を帯び、水に浮かべると正確に「北」を指した(伊賀市の三重大伊賀研究拠点で)=紀平研究員提供撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180307-OYTAI50002-T.jpg?type=thumbnail

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