膝の力抜けば圧力増す

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 武道を始め身体接触のプレーがあるスポーツでは、相手を押す、相手の体当たりを受けることが多い。古武術研究家の甲野善紀氏は、1本の棒を2人で押しあう時に、一方が膝関節を脱力させ、体重を宙に浮かせて相手を押すと、一般的な筋力による「押し」よりも、はるかに大きな力を発揮できることを映像で紹介している。

 また、タックルを受ける際、両脚を踏ん張って受けると衝撃に対処できず、支点である脚を中心に、円を描くようにはね飛ばされる。しかし、タックルを受ける瞬間に、膝の力を抜いて体を宙に浮かせることで、体勢を崩さず、わずかに体が後方に移動するだけで対応できるとしている。

 私は2010年、男子大学生10人を対象に実験をした。脚を前後に開き、胸の前で腕組みをした状態から、全力で下肢筋力を発揮させて、前方へ押す(以下「蹴り」と略す)動作を行わせる。続いて、一瞬の脱力後に押す(以下「抜き」と略す)動作の圧力を比較した。

 前面には圧力板を垂直に立てて前方の力と下向きの力を、床には圧力板を設置して鉛直分力を測定した。右脚の内側広筋(膝関節の伸展筋)と腓腹ひふく筋(ふくらはぎ、足関節の底屈筋)には筋活動が記録できるようにした(図)。

 記録例をみると、「抜き」では筋放電(内側広筋と腓腹筋)は脱力によって消失し、抜重(宙に浮く)による鉛直分力の減少にもかかわらず、前方分力は「蹴り」の値よりも増加し、その後の下肢筋力発揮に伴う床反力の加重によってさらに増加している。

 数値を比較すると、前方分力の最大値は「蹴り」が18・2キロ、「抜き」が29・3キロ。「抜き」が「蹴り」の1・61倍、下方分力の最大値は「蹴り」が2・2キロ、「抜き」が3・7キロで、「抜き」が「蹴り」の1・68倍に増加する。

 鉛直分力の最大値は「蹴り」が75・5キロ、「抜き」が100キロで、「抜き」が「蹴り」の1・32倍に増加する。

 学生の体重は静止状態では平均68・1キロだが、膝関節を脱力して重心を落下させると軽くなり、落下を止めると増加する。走り幅跳びの踏み切りでは、体重の10倍にも達することがある。また、脱力後の筋活動量は、「抜き」の内側広筋が「蹴り」の2・94倍、腓腹筋が1・57倍に増加した。

 相手に体当たりする時や、相手の体当たりを受けた瞬間に、膝関節を緩めると、まず自分の体重が相手に伝わり、脱力後の踏ん張りによって、下肢に伸張反射(筋が引き伸ばされると収縮する反射)が発生し、2段階の圧力が相手に加わる。

 このため、相手は想定外の圧力を受けるので、体勢が崩れる。相撲における「がぶり寄り」は、この脱力と伸張反射の筋収縮を繰り返すことを利用した技であろう。

 武道や対戦相手と接触するコンタクトスポーツでは、筋力のみに頼らず体重を有効利用することで2倍近い圧力が加わり、運動成果が格段に向上することが期待できる。

脇田裕久・名誉教授
脇田裕久・名誉教授

 脇田裕久・名誉教授

 運動生理学。東京教育大卒。子どもの体力、

俊敏性、気合、古武術の研究など。剣道教士七段。

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31010 0 三重大発!忍び学でござる 2018/07/04 05:00:00 2018/07/04 05:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180705-OYTAI50001-T.jpg?type=thumbnail

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