小説で露に忍者紹介

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

→→49
→→49
ロマン・キム著「幻の学校」
ロマン・キム著「幻の学校」

 前回紹介したソ連(当時)初の忍術研究家で、日本学者であり、スパイ小説作家としても名高かったロマン・キム。忍術研究の論文を書こうとした矢先の1937年、“日本のスパイ”という容疑で逮捕され、論文も挫折した。

 終戦から間もなく疑いが晴れ、自由になったキムが、スパイ小説に専念し、忍者のテーマに戻れたのは64年の小説『幻の学校』(Shkola prizrakov)からである。論文では書けなかったキム独自の忍術の見解が、小説の姿を借りて広い読者層に紹介された。謎の多いこの小説について少し語りたい。

 北アフリカにあるスパイ学校に入学した主人公が、入学の際に口添えした紹介者に、手紙の数々を書くという形で小説が展開する。手紙の中に、主人公が習うスパイ学校のカリキュラムが細かく書いてある。その中に“一番大切な科目”として「忍術」が出てくる。

 しかし、忍術といってもかなり現代化されたものが描写される。忍術の研究・解説本では大抵、明治維新を忍者の終わりとみることが多いのに対し、キムは、忍術の歴史を三つの段階に分け、14~19世紀をその第1期とみる。

 明治維新以降の第2期は、伝統的な忍術が、欧米の最新学術知識や技術によって近代化されながらも、日本の伝統文化とのつながりを保ち、日本ならではのスパイ術であり続ける。その代表的な担い手は陸軍中野学校である。

 第2次世界大戦での敗戦以降は第3期の忍術とし、以前の忍術を参考に米国諜報ちょうほう部によって編み出されたものとして描かれる。惨めな有りさまにある戦後の日本で、米軍人らが忍術伝書をあさる場面も色鮮やかに描写される。

 小説の中心になっているスパイ学校の生徒たちが習うのは、無論、その第3期の忍術。クーデターの準備、流言飛語の流し方のほか、冷戦時代の当時とあって最新の暗号や心理学に基づいたマインドコントロールなど、現代大衆向きの忍術解説本では「上忍」(忍者組織のトップの人)が心得るべきことばかりである。

 最近の忍術研究では、「上忍、中忍、下忍」という概念は、忍者組織の中の階級というよりも、具体的な人の忍術上達レベルを指すという説が有力だ。小説の中でも尾行、盗聴、探索を行う「下級忍術」、下級忍術を行う人たちをスパイ網に組織し操る方法「中級忍術」、主人公が習う政治を左右する方法「上級忍術」と描写される。最近の忍者学に何となく近いイメージになっているとも言える。

 もう一つ、忍術研究者の注意をく点は、スパイ学校の忍術の一部として「カタケシ術」(形消し術?)と名付けられた暗殺の術が出て来る。私の狭い見識では、忍術に関する日本や欧米の文献に「カタケシ術」は見当たらない。

 だが、ソ連末期のスパイに関するノンフィクション・ブックや、90年代のロシアに現れた忍術解説本の中に、その「カタケシ術」や、キムならではの上中下級の忍術を、まことしやかに紹介するものを筆者が幾つか見たことがある。

 つい最近、旧ソ連から独立したある国の軍人学校のサイトで、カリキュラムが紹介されており、明らかに『幻の学校』からインスピレーションを受けた科目があるのを見た。文学と実社会、そして忍者の虚像と実像が溶け合っていることに驚くばかりである。

クバーソフ・フョードルさん
クバーソフ・フョードルさん

 クバーソフ・フョードル・国際忍者研究センター研究員

 ロシア・サンクトペテルブルク国立大卒。三重大に2度の留学経験があり、昨年10月、研究員として3度目の来日。

無断転載・複製を禁じます
49965 0 三重大発!忍び学でござる 2018/11/16 05:00:00 2018/11/16 05:00:00 ロマン・キム著「幻の学校」 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20181116-OYTAI50002-T.jpg?type=thumbnail

ピックアップ

読売新聞購読申し込み

アクセスランキング

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)
ページTOP
読売新聞社の運営するサイト
ヨミダス歴史館
ヨミドクター
発言小町
OTEKOMACHI
元気ニッポン!
未来貢献プロジェクト
The Japan News
YOMIURI BRAND STUDIO
美術展ナビ
教育ネットワーク
活字・文化プロジェクト
よみうり報知写真館
読売新聞社からのお知らせ