アフリカで「知恵」伝える
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私の県立津高校の同級生、市橋隆雄君は、アフリカで子どもたちに忍者の知恵を伝えている。彼は亀山市出身で、品川キリスト教会(プロテスタント)の宣教師。ケニアの首都ナイロビで30年も働いている。帰国した際にテレビで偶然私を見かけ、三重大学・伊賀研究拠点を通じて連絡を取ってきた。津駅前のホテルで昨年11月、半世紀ぶりの再会を果たした。
彼はナイロビでスラム街の子どもたちの教育に取り組み、ここ15年ほどは教育活動の拠点となる「コイノニア教育センター」の建設に奔走。時々帰国しては、国内各地を巡回し、活動報告と資金調達をしているのだという。
市橋君いわく「スラムの子どもたちに必要な本当の援助は、食べ物ではない。与えられた能力を使いこなす知恵を、幼い時から育てていく教育だ」。そのために、彼自身が子どもの頃に親しんだ「忍者遊び」を取り入れたいのだとか。
私が試作した「忍者食」などを通して、忍者の知恵をアフリカの子どもたちに伝えたいという。戦国時代、どのようにして農民の子を忍者に育てたのかを想像してみると、漠然とだが、彼の教育方針にどこか似ていそうだ。
若者に自信と勇気を持たせる指導は難しい。農民の子から忍者を育成する指南書があったら、当時と今の社会認識の違いはあるにせよ、忍者独特の知恵をもっと生かせるのにと思った。
市橋君の「忍者遊び」は、幼なじみの祖父が伊賀市柘植町出身だったのがきっかけ。そのおじいさんの指導で、亀山市南野町あたりで遊んだという。
目を閉じて砂利や瓦を打つ雨音を聞き分けたり、人の動作を
目隠しをしたまま、
初めて訪れる場所には、必ず約束の1時間前に到着し、その周辺を歩いて道の様子や建物などを頭に入れる。他人の家に行ったら、まずトイレを借り、家の間取りを観察する。今思えば、すべて情報収集のトレーニングだったという。
忍者遊びを体で覚えている市橋君は、アフリカの子どもたちに、どのように忍者文化を伝え、生きる力を身につけさせていくのだろうか。楽しみである。

久松眞・名誉教授
食品科学。同志社大卒、三重大院修了。機能性食品の開発などを手掛ける。