3人で自立へ一歩
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この春から家族3人での暮らしを始めた藤原洋さん(32)と
経済的にも他人の支えなしに生きたい。幸恵さんは昨年5月から東松島市内の果樹園で働いている。週5回、ほかの障害者と一緒に野菜の種まきや収穫に汗を流す。今は最寄り駅まで母の内海やし子さん(61)が送迎するが、一人で行けるようにと今年3月、盲導犬の利用を申請した。
結愛ちゃんの将来を考え、貯金も始めている。毎月数万円を結愛ちゃんの通帳に入れ、おこづかいで余った分はタンス預金に回す。
夫婦にとって自立とは何か。「守りたいものを守る力を持つことです」と力強い。
◎
結愛ちゃんがアンパンマンの絵本を手に、洋さんの膝の上に座った。
「パパ、読んで」
洋さんは困った。21歳まで視力があったから、記憶と感覚を頼りに掃除も料理もできるが、目の前にある本は読めない。仕方ないので、絵本を開き、でたらめな物語を話し出した。
「むかーしむかし、桃の中からアンパンマンが生まれました」
しばらく目で絵本を追っていた結愛ちゃんは、1分もしないうちに飽きて人形遊びを始めた。
ささいなことだが、こういう時、洋さんは不安になる。全盲の自分がどんなに努力しても、世間一般が求める「子育て」には及ばないのではないか。むしろ、娘の成長に何か良くない影響が出てしまったら――。
それでも結愛ちゃんの誕生は、2人に生きる意味を与えてくれた。娘のいない頃は暗闇の世界に絶望しながら、何となく日々を過ごしていたように思う。「結愛は私たちの光なの」と幸恵さんは言う。
これからもさまざまな苦難が待ち受けているだろう。「どんな困難も乗り越えていける子になってほしい」と夫婦は願う。
結愛ちゃんなら大丈夫。逆境に立ち向かう両親の姿を、いつも傍らで見ているから。
(この連載は、益子晴奈が担当しました)